バーカウンター
- 2025/06/18 23:27:59
カウンター奥の隅っこの席が俺達のお気に入りだった。ダウンライトの暗い灯りが
色んなネタを肴にお喋りするにはちょうど良かったのだ。あいつはまだ来ていない。
学生時代からの古い友人だ。一杯頼んで、ぼちぼち待つことにした。
「よう。」
相変わらずの第一声。しかし、この短い音節でなんとなく丸く収まる。待たされたことは
水に流そう。尤も?こいつは、俺を待たせることは気にも留めてないらしいが。
案の定、来た早々例の話題を切り出してきた。
「今回の薬害騒動って、ほんと気の毒だよな…亡くなった人もけっこういるみたいだし…。」
「政府発表してる数字を鵜呑みにすんなよ?あれは認定ハードルが高くしてある。実態はもっと多い。」
「あのときは緊急事態だっただろ?ざっくりとした診断基準しか使えなかったんだよ。」
「お前さ、中央政府が本当のこと言うと思うのか?」
「まあ、そりゃ政府も国の運営してるんだから、表に出せないような色んな事情もあるんだろう。」
「まてまてまて、そうじゃないんだ。それって国益のためには清濁併せ吞むって発想だろう?
そうじゃないんだよ。例えば、アカデミズムとか権威とかってあるだろ。学会で学者向けに
出てる専門誌とかだよ。あれってのってる論文や研究結果が本当だと思ってるか?」
「そりゃ、そうだろう。それをもとにして専門家が指針を決めて、政府がそれを実行するんだぞ。
門外漢が分からないことは専門家に聞いて決めるのがスジだ。」
「その大学や公的研究機関に予算出してるのは政府なんだぜ?いまやアカデミズムにも経済効率を
求められてるんだ。そうしないと予算削られるからな。」
「まあ…それは、そうだけどな。」
「しかも、そういう所には民間からも資金が出てることが多い、そういうのってどこからの金だと思う?
製薬会社やそのバックが大半だ。巨額の研究資金が出てる。なぜだか分かるよな?」
「そりゃ、いい薬作るには沢山のお金が掛かるからだ。」
「ほら、そう来た。」
「なんだよ?」
「そこが違うんだよ。製薬会社は企業だ、儲からなくちゃ成り立たないんだ。製品開発や臨床実験して
効果がありませんでした、って終わっちゃったら全部赤字だぜ?」
「だから、そこは製薬会社が使命感とか、世界の人々のために、とか…」
「何年もかかって作り上げた新薬が、効きませんじゃ、株主が許さないんだよ。だったら社長交代とか
解雇とか圧力をかけてくるんだ。所詮会社の研究者も、公的機関の科学者も、経済原理にのみ
支配されてるんだ。それが実情だよ。」
「まてよ、でもちゃんといい薬もあっただろ、だから医療界だって救われてきたじゃないか。」
「確かに、抗生物質は革命的だったさ。でもな、それは昔の話だし、パテントはとうに切れて第三国の
安物にとって代わられてるんだ。本家製薬会社にもううまみは無いさ。それに乱用からくる耐性菌の
問題もあっていいことばかりじゃない。」
「…。」
「だからさ、いまのアカデミズム界ってのは、都合のいい結果しか出さないのさ。」
「でも、世界中で検証されるわけだろ?だったらボロがどっかで露わになるんじゃないか?」
「たとえば…おれがお前にアリバイ工作頼んだら、口裏あわせてくれるだろ?」
「?…でも、ほかの誰かが証言するぞ…」
「そいつにも金を渡す、他にいるならそいつにも金を渡す、そうやって大多数に金を渡せばどうなる?」
「…おまえ…。」
「それが世界中の国際機関や政府やアカデミズムやマスコミの正体さ。」
「…。」
「今の世界ってのはさ、株とマネーに支配されてるんだ。」
「…。」
「初めの話に戻ろう。製薬会社が確実に売れる薬を作るにはどうしたらいいと思う?」
「?…。」
「薬の副作用を問われない、緊急事態で使わざるを得ないような、そういう感染症を予め作って広めるのさ。」
「ば、ばかな…。」
「もちろん一企業だけじゃなく国家を使って第三国で研究開発させる。同時並行的にワクチンもな。
RNA製剤はそのためのスピードアップテクノロジーさ。」
「そんなことッ」
「おまえ、国って一番上だと思ってるだろ?多国籍の奴らは国になんか縛られない。
だから、世界を股にかけて大きな詐欺ができるんだ。昔からな。」
「でも、人の命が大切だろ。それを…」
「命?…奴らは金が一番大切なんだよ、他の人命なんてゴミだと思ってる。」
「…。」
「それが一番確実に儲かるビジネスモデルなんだよ。株主にとっては、な。」
「…。」
「もう一つ言っておこう。それでババ引いて製薬会社がポシャっても、M&Aでまた儲ける。
そういう連中に世界は回されてるってことさ。」
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