Nicotto Town


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ある神父の告白

投稿者:Litsu☆

「おい、見ろよ、あの襟…。」
「ん?あれって……神父か?」
「趣味であんなもん着けるヤツなんかいるかよ! ありゃ~本物の神父だ。」
「なんで、こんな安酒場で飲んだくれてんだ?、スラムだぜ?」
男たちは、場違いな所の場違いな客に、やや訝しげな視線を向けていた。

「ちょいとあんた達、黙っときなよ!誰だって飲みたくなるときゃあるさ。」

女主人は間に立ちはだかるように、追加のジョッキをトンッとテーブルに置いた。

「オリヴィア、でもよお、場違いじゃねぇか?ここに神父なんてよお。」
「あの人はね、隣町の神父さんなのよ。少し前から来るようになってさ。
 ちゃ~んと飲み代は置いてくし、上客さ。どっかのツケ回しのぼんくらとは大違いさ。」
「ウッ…、わかったよ、もう言わねえから、チッ。」

しかし実のところ、この酒場を切り盛りするオリヴィアにとっても、それは気になっていた事だった。
年は自分と同じくらい、或いは少し上かも? どうして聖職者がこんな所で独り…
無意識に足がそちらに向かった。それは興味というより、大いに同情を誘う光景だった。

「…ねえ、ちょっとアンタ。神父さん、ってば。」
「うう…ん…。なにかね?注文はしてない筈だが…」
「じゃなくてさー。あんまり悪い酒食らってると体に毒だよ?…ほどほどにしときなよ。」
「優しいな君は。…神父の素質がある…」
「バカ言ってないで、ほら、ちゃんと腰かけて。」

上体を起こさせると神父は少し咳込んだが、深く息を吸い落ち着くとポツリ語った。

「君は…恋をしたことがあるか?」
「?? 何言ってんの?」

「私はずっと神の道を歩んできた。懺悔室を知ってるだろう?私はあそこでずっと神の言葉を人々に
 示してきた。来る日も来る日も…ね。まあ、ご案内だろうが、私が聞くのはとんでもない
 間違いをしでかした連中の謝罪や言い訳ばかりだ!だから、聖書を読めと言ってる!赦せと言ってる!
 祈れと言ってる!日々そんなことの連続だ。大衆に神の愛を示せるよう、私は精進を怠らなかった。
 つねに、勤勉に、謙虚に、愚直に。…そうやって来た。
 そんな私にも昔好きな女性がいた…。まだ、学び始めていた頃のことだよ。嬉しいことに彼女も私に
 好意を寄せてくれていた。不思議だ…当時はそれが当たり前の自然なことのように感じてた。
 …しかし、私は神への愛を貫く者として、彼女の幸福を心から祈りつつも、距離を置くことにした。
 それが一番良い、素晴らしい方法であり道であると信じたからだ。やがて、お互いは離れ、彼女は
 別の立派な男のもとに行くことになった。」

「…まあ、そんならそれでよかったんじゃないの?めでたしめでたしで。」

オリヴィアは肩をすくめ、両手首を返し納得したような表情をした。

「ところが、だ!
 五か月前、いつものように私が懺悔室に行くと、聞き覚えのある迷える子羊の声がしたのだ。
 …そうだ、彼女だよ。不思議なものだ、もう何十年も前なのにすぐ彼女だと分ったよ。あろうことか
 …不貞の懺悔だった…。
 彼女は幸せに暮らしている筈だった。いや、今も幸せに暮らしていると言った。だが、どうしても
 相手の男への愛に…抗えぬと。」

「……。」

「少しだけ、それとなく訳を訊いてみた。昔、愛した男の面影がそこにあるのだという…。
 笑えるだろう? 満ち足りて生活しているご婦人が、昔の相手の影を求めて、未だに彷徨ってる。
 私は言ってやったさ!神は汝の罪を御赦しになってます、とね! …ハハハッ
 どうだね? 私は神の声の代弁者だよ? それが赦すと言ってる!けっさくだ。」

「…ちょっと…神父さん。」

「いいよ、分かってる。だが私はもう神父じゃない…辞めたんだ。私が分厚い懺悔室の壁の向こうで
 どう思ってたと思うかね?
 【嫉妬】だよ。…勿論彼女の夫に対してじゃない、
 その不貞の相手にさ。 私が欲してるのは神の愛じゃない! 若かりし日、彼女を奪ってやれば
 よかったんだッ! 彼女の未来も夢も心も体もすべてをッ!その大切なものすべてをッ!
 私のものにして!強欲に!奪い去ってやればよかったんだッ!
 …だが、私は祈ってしまった…。
 あの小部屋で今まで聞いてきた罪、後悔、懺悔…
 …あれは神がその者たちの声を借り、私に語りかけていたのだ。
 【ただの人間が『神』のようになど振舞うな!】…とね。」

オリヴィアは暫し黙ったままだったが、笑みを浮かべて言った。

「…ねえ、アンタ。今度一緒にどっか行こうよ、二人でさ。」

「え?」

「神父、やめたんでしょ♪」



アバター
2025/08/04 13:26
コメントありがとうございます(^^♪
そう言っていただけると、私もうれしいです!
ちょこちょこまた書きますね☆
アバター
2025/08/04 02:36
空気感がめっちゃくちゃ好きです……!オチも希望が差し込んできて温かい気持ちになります……✨



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カテゴリ
自作小説
メンバー数
17人/最大100人
設立日
2024年02月18日

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