灰色の大地
- 2025/11/09 21:58:00
気が付くと灰色の大地にわたしは居た。
少し頭がボーっとして視界もはっきりしなかったけど、なぜか髪がばさついていた。
やがてピントが合ってくると、灰色の大地に灰色の空が、何処で交わるのか分からないような
あいまいな世界だった。兎に角、歩いてみようと思い、何となく導かれる方へ歩みを向けた。
やがて、一本の太い枯れ木に遭遇した。よく見ると木の幹に目を閉じた顔の様なものがあった。
ちょうどディズニーのおとぎ話に出てくるような樹の精にみえた。
(なに?これ?)
誰も居ない何も分からない荒涼とした平原だ ‥いっそ試しに尋ねてみようと思った。
「あの~、こんにちわ。‥樹の精さん?ですか。」
すると、硬そうに見えた人面が映画のCGさながら目を開けた。そしてジロっと見るなり
「おや、珍しいね。こんな所に人間かい?どこから来た?」
‥と、わたしの方が質問していたのだけど、逆に訊き返されてしまった。
「え?わたし‥その、どうして此処にいるのかも分かんなくて。‥ここ、何処ですか?」
「へえ~、君、門をくぐってない人だね。じゃあ、この先に建物があるから、そこへお行きなさい。
そこなら、君の質問に答えてくれると思うよ。じゃあ‥」
それだけ言うと、人面樹は目を閉じ口を噤んで、ぴたりと固まってしまった。
「ちょ、ちょっとまって!」
もっといろいろ沢山訊きたいことがあったのに、今度はピクリとも動かない。
何度か繰り返し声を掛けたけど全く反応が無かった。 ‥しかたない。諦めて言われた事に従った。
少し歩いたところにコンクリート造りの四角い建物が見えた。何かの研究所みたいだった。
薄汚れた入口の扉をそ~っと開け、中を覗いた。
「あの~、すみません‥」
中には見たこともないような機械が沢山置いてあり、白衣を着た小柄な白髪のおじいさんが一人、
忙しそうに機械の操作をしていた。
どうも、わたしに気が付かない様子なので、もう少し大きな声で言った。
「あのーッ すみませんッ!」
白衣のおじいさんはビックリして目を丸くしながらこちらを振り向いた。
「わお!なんだ君は?どうしてここに居る?!」
~かくかくしかじか、これこれこういうわけで~
「なるほど、お前さん無自覚でここに来てしまったんじゃな?」
「ここって、どこなんです?」
「まあ‥なんじゃ、あの世とこの世の中間帯っていうか、夢の世界、とも言われておる。
おおかた、寝てる間に幽体離脱でも起こしたんじゃろ。考えられないことじゃない。」
「幽体離脱??」
「まあ、今のお前さんはさしずめ魂(たましい)の彷徨い人、っていうトコじゃろう。」
「ええー、それでわたし、どうなっちゃうんですか?元の場所にもどれるの?」
「ああ、大丈夫。この施設はこの星域の【全魂】の総合管理センターと直結しておる。
生から死、、輪廻、昇華、そういったものを整然とつつがなく執り行うのがお役目なのじゃよ。
言うなれば『運命の番人』じゃな。三次元界の運命は‥絶対不可逆じゃからのう。」
「へえー」
「心配いらん。霊視スキャナでお前さんのスピリチュアル・コードを解析すれば全部わかる。
そうして元の居るべきところへ、ここの転送機で送ってやれば解決じゃ。」
「わあ~♪ わたし、戻れるんですね?ありがとうございます、おじいちゃん!」
「おじいちゃんはやめてくれんか‥。」
「すいません、‥わたし、小さい頃の記憶しか無いんですけど、スゴイおじいちゃんっ子だったんで
何だかそのことちょっと思い出しちゃって‥へへ☆ ‥‥えーと?」
「‥せめて博士、と。」
「あ、ハイ♪ 博士。」
転送機と博士が呼んだ縦長のタマゴ型のポッドの中で、わたしは待っていた。
「よいかな? 一瞬空気が薄くなって気が遠くなるような感じがするが数秒じゃ、安心したまえ。」
「はい、いろいろお世話になり有難うございました~。さよ・な・・」
ヒュウゥゥ~~~~~~~ン‥‥
部屋には電算機と転送機、解析機、通信機、記録装置‥どれもこれも無機質な物に囲まれた老人、そして静寂。
「‥こういうのは、もうキツイな‥」
解析画面には先ほど転送した彼女の詳細データが表示されていた。老朽化した鉄橋から転落した列車事故の
死亡者リストにその名前があった。標高が高くその下は深い谷で生存者0との表記があった。
「おそらく‥落下直後の車中‥‥。」
灰色のトーンで統一された空間に、溜息がいっそう冷たく乾いた残響となって霧消してゆく。
博士は、誰の声もしない施設内で、暫しのあいだ目を閉じた。
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