もう一つのバーカウンター
- 2026/02/08 08:26:30
うちのバーのカウンターで涙ぐんでいる彼女を見た時、僕は咄嗟に嫌な予感がした。
(あ~、なんかしんど~。 ‥めんどくせー、‥きっと‥)
よくこの店に来るお客さんで、気立ても良く美人だし、明るい性格の女性だが
おしゃべりがちょっと理屈っぽく、たま~に暴走する‥ 絡み酒というほどのもの
ではないが、穏便にと応対してると正直こちらが疲れるのだった。
(なんか、あったみたいだなぁ‥、ま、しばらく放っておこう‥)
(あ!こっち向いた。‥って、すげー見てるし‥、やばッ ‥‥‥)
‥こうなったら仕方がない。逃げるのは職務放棄!これもお仕事だ。
「あの~‥、どうかされたのですか?」
「ねえ、聞いてくれる?(ぐすん‥‥)」
「ハア、なんでしょう。」
「この前、彼とケンカしちゃって、そっからぜんぜん連絡ないの‥。」
ああ、やっぱりそんなとこか。何となくこのシチュエーションで九割くらいは想像できたが
あまりにもどストレートにベタすぎて、もはや言葉も出てこなかった。いや、頭の中に言葉は
複数浮かんだが、要約して溜息となった。
「なにが、あったんです?」
「じつは‥‥」
最近つき合い始めた彼氏さんと、ひょんなことから言い争いになり、部屋をとび出したっきり
その後、どうやっても連絡がつかず、放置プレイ状態にされているとのことだった。
「べつに、嫌いになるような話をしてたんじゃないんだよ?わたしのことはすごく好きって言って
くれてた。そしてその【好き】は普通のすきじゃない、きみの心が【好き】なんだって。
きみの内面の美しさがすっごく【好き】! これからは絶対きみを独りにはしない、おれの
【好き】っていうのはそういうことなんだって♪
‥‥嬉しかったよ?彼にとって最上級の愛情表現だって言ってたし。
だからわたしも、それについては素直に(ありがとう♪)って応えたよ。」
「ほう。」(こりゃ、のろけか‥)
「でもね? わたしは言ったの。
わたしがここに会いに来るときだって、メイクもするし、お洋服だって選ぶし、髪型だって整える。
喜んでもらえるかな?、きれい♪、可愛い♡って思ってもらえるかな?って。だからやってる。
そういうのに全然関心持たれないとしたら、それってわたしにはちょっと悲しいな、って。」
「ふんふん」(‥女心のわからん彼氏だな‥)
「そしたらさぁ
そんなことは無いだろう!極論すればオレは外見はどうでもいい、たとえそれがキューブ(物体)
であったとしても、おれは好きなものは好きなんだ!これは究極の愛だよ?
なぜそれが分からないんだ!って‥‥‥。」
「‥‥‥。」(あちゃ~、逝っちゃってるな、この彼氏さん‥‥)
「どう思う?」
「あ、いや、それはちょっと行き過ぎてますよね。今こうして対面でお話ししてコミュニケーション
してるのだって、貴女を女性として魅力的に見えてるから出来るのであって、あまりに残念な
ルックスの方だったら、そもそもお声がけとか、しないし‥‥ぶっちゃけね?‥‥アハハ‥‥」
「あ、アバターの話だよ?」
「え?」(なんだよ!バーチャルかよ!)
「うん、アバター同士のお話し。」
「でも、そのアバターの向こうには実際にリアルの人間がいるわけじゃないですか。
だから‥恋で喜んだり!悩んだり!傷ついたり!‥そういうのは普通の現実と同じでしょう?
それをないがしろにするのは良くないと思いますね!」
あまりこういう話に深入りするのはバーテンダーとしては良くないと思っているのだが、
僕は多少熱のこもった気持ちで無暗に力説してしまったことを少し恥じた。
「‥あたしはね? 彼の言ってることを間違ってるとは思わないの‥‥。」
「‥‥‥。」
「わたしが傷つくのは、何が起こっても絶対にわたしを独りにしない。って言ってくれてた、
その彼が‥わたしをこうして放っておいてるってこと。」
「まあ、そりゃぁ、男はそういうふうに言うもんですよ? ‥‥好きな人にはね。」
すると彼女は、フフ♪‥と目を細めてわずかに微笑みながらポツリ語った。
「そうじゃなくてね?‥‥
そういう人に、たとえ一刻であれ、恋をしてしまった自分に対して。‥‥だよ。」
僕はそれ以上何も言わず、そっとしておいてあげよう、と思い‥黙々とグラスを拭いた。
・























さあ~、どうなのでしょうw?
いちおう、ここでのお話は一話完結ということですので^^