春の季節
- 2026/03/26 17:43:51
[君にききたいことがあるんだ。」
ただ一言の挨拶を交わした後、とつぜん彼はわたしに浜辺でそう尋ねて来た。
暮れゆく海を、一人でじっと見つめ佇んでいる彼を見かけ、何気なく声を掛けた直後のことだった。
‥その日‥わたしが浜を訪れたのはまったくの気まぐれだった。するとポツンと人影が見えた。
こんな寂しい場所でどうしたんだろう? わたしは気になって遠まきにその横顔を覗いた。
(‥似てる‥)
そうだ‥なぜ?そんなことしようと思ったのか?
彼が、かつて私の前から突然姿を消した『恋人』に似ていたからだ。
もちろん違う人なんだけれど、後ろ姿とか、雰囲気とか、いま見るこの横顔とかが
どことなくその『恋人』に似ていた。本当にそれだけのことだった。
「‥こんにちわ。」
わたしは特に愛想よくも悪くもなく、ただ流れに身を任すようにそう挨拶をした。
少し驚いたような表情をしていたが、彼も同様に応じた。 ‥その直後だった‥。
[君にききたいことがあるんだ。」
「?」
聞くと随分長い間この町を離れていて、久しぶりに帰って来たが、街の雰囲気は一変していて
どこがなにやら?かつての自分の知ってた町とは別のモノになってしまっていて黄昏ていたのだそうだ。
「むかしは沢山友達もいて、色んなことして遊んだもんなんだけど、もう誰も居ないし
そりゃ、町も変わっていくよね。ここの景気もだいぶ良くないみたいだ‥」
「そうね。」
波音が静かに、二人を包み込むように、前から後ろへゆっくりと順々にとおり過ぎて行った。
辺りはだんだん暗くなり、そろそろ帰り道を見失わないようにしないといけない時刻が近づいてくる。
じばしの沈黙のあと、時を察し、わたしは切り出した。
「ねえ、どうしてわたしが声を掛けたか、わかる?」
「?」
「じつはね? きみが昔に知ってた人に似てたから♪」
「‥?」
「きみの立ち姿とか、横顔とか、‥そうね‥髪はちょっと違うかな?でも雰囲気がね‥」
「へえ、そうなんだ。」
「‥それだけ‥」
「でも、僕はその人とは違うよ。」
「わかってる。」
相変わらず淡々と、波は足元にわずかな囁きと揺らぎを漂わせ、まだ二人をそこに留めている。
紫色の雲は灰色に変わり、やがて黒い闇を連れて来るだろう。そうなるともう帰れなくなる。
「じゃ‥」
わたしは遅くならないうちに帰ろうとバス停の方に向かって歩きはじめた。
「あのッ!」
いきなり、彼の声がして周囲の風景を黙らせた。(‥呼び止められた?‥)
海風が私の髪にいたずらするので、それを指でほどきながらふり返ると、その彼が言った。
「また話がしたい。僕は明日もここに居るから。」
(‥ザザザ~‥ ‥ザザザ~‥ ‥ザザザ~‥)
「わかった‥。 じゃ‥またね。」
そう返して、わたしはふたたびバス停に向かって歩いた。
‥そうだった、もうすぐそこまで『春の季節』が来てたんだ。すっかり忘れてたよ。
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- Litsu☆
- 2026/03/31 21:55
- ありがとうございます~♪
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- シフォン
- 2026/03/31 17:49
- 素敵♡^^*
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