未来的幽霊
- 2026/05/04 09:31:23
「…出るんだって…」
こちらの反応を探るように、それでいて楽しむかのように、わざと声を潜めて友人は言った。
大学の超精神物理学部形而上学科の教室では、第二資料室で起きている【ゆうれい騒動】について
少し噂になっていたのだ。
「へーえ(呆れ)すごいな。」
「だろう?」
彼は同意を得たことに少し満足したように口角を上げた。
「でも噂だろう?それって。もの好きな女子学生が広めてるデマだよ。」
「それがさ、今度のは本物らしいよ?実際に見たやつがいるらしい。」
「よせよ、今どきそんなこと無いって」
「だって、目撃談はすごく具体的なんだぜ?髪はショートで黒、白い服の女だって言ってた。」
あーあ、また始まった。こういうゴシップ好きな性格に何度煩わされたことか、きっと検証しよう
とか言い出すに違いない。これがなければただの面倒見のいい奴なのだが。
「噂が重複して架空の最大公約数的イメージと重なり脳内変換されてるだけだよ、ばかばかしい。」
「いや、待てって。そういう早合点では済まないかも知れないんだって。」
「お前さ、だいたいこの現代じゃ、幽霊なんてものの存在の理由も原理もほぼ解明されてるんだぜ?
多くが物質世界に残留してる、霊子体の素粒子振動の共鳴から起きる脳内疑似認知現象だって。
メンタル色相が時代的平均倫理域から乖離した個体に見られる、次元移行不全の際起きる
過渡的な現象だろ? そもそもが物質現象ではないし、受け手のこちら側が意に介さなければ
いずれ、指導ユニット(超素粒子霊子体群)が解消してくれるものじゃないか。
僕らの世代の精神域は、昔と違ってキリエ第三層まで上昇してきてるんだ。
かつて死んだ者といっても、どこまで遡れば物質世界に残留思念残す奴なんているんだよ?」
「だ、か、ら、一緒に検証してみないか? 第二資料室行こうぜ。」
「ウッ…。」
ノセられた感もなくは無かったが、こうなったら暫くこいつに付き合う他なさそうだ。
僕たちは資料棟を目指した。そこは大理石素材で覆われたドーム状の室内だった。
床には円がモザイク紋様で描かれており、そこに立つと複数同時検索が可能だった。
思念を送り中央想念帯ライブラリにコネクトするが…今日の目的はそれではない。
「ホントにこんなところに出るのか? 出るって言うからには、我々の霊子体振動数とある程度
共鳴がないと無理なはずだろ?」
「そこが現在も認識のズレるところでね。個人の共鳴能力にはかなり幅があるんだ。周波数感応って
いうか、生まれつき共振しやすい者が一定確率でいるんだよ。センシティブって呼んでるけどね。」
「ふむ…なら、中心総合意識核にコネクトして、一時的にセンシティブの共振因子だけを我々の脳に
転写できないか?」
「たぶん可能だと思う。リミット設定なら上書きもされないさ。」
僕たちは、中心総合意識核にコネクトし最も適合性のあるセンシティブをリストから選択させ
共振因子を抽出して光子化。脳の共振野のシナプスに時限転写した。
「あ…」
「居るな…。」
ドーム内の隅に景色を透過させている影が浮かび上がっていた。よく見ると表情がうかがえた。
なるほど…。自身の精神振動核が引きずられないように注意しながら、僕は単刀直入に尋ねた。
「ねえ、きみ。どうしてそこで立ってるんだい?良かったら教えてくれないか?」
「…しゃ、しゃっきん…、か…えせ…ない。 もう…し…ぬ…しか…。」
「聞いたか?おい、『しゃっきん』……て…何?」
「貨幣?…の一種?…だったっけ?」
僕はライブラリにコネクトし検索してみた。
「…ほお、…太古のむかしに、主に物品の交換に使われた、社会通念上の概念ツールだ。
物質界での生命維持に有用なだけでなく、様々な欲望の発露にもつながったらしい。」
「なんだ、そんなの霊性向上の妨げだろ。妙なツールだな。」
「いや、大昔はまだ、精神波動を使ったエネルギー集中固定化による物質化が実現されて無かったころだから
それも仕方なかったんじゃないかな。」
「そんなもののために、残留思念化して三半次元に留まってるのか?理解できないよ。一体いつから?」
「その概念のあった頃っていうんだから?…2200年くらい前だよ。」
「そんなに??…執着が続いてるのかッ?この霊子体…!」
「…おい、横に何か数字が浮かんでくるぞ。」
「‥これって、貨幣の額?
‥にしちゃぁ、単位が‥‥」
「こいつ‥ちゃんと‥
‥複利計算してやがる‥。」
それを見て、僕たちは背筋がゾっとした。
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アイデアは浮かんだんですけど
専門用語っぽくするのに苦労しました^^