Nicotto Town


メルカッツ提督苺


山よ…(後篇)

俺は予定を変更して、佐々木小次郎という俺と同年代の若者と
牛の舌と言う難所に向かった。会社には依頼人が連絡してくれることになった。

山小屋から牛の舌までは2時間の道のりだ。その間に二人で状況を
想定して、それぞれの対処を検討した。
天候が落ち着いていれば日暮れ前には崖を登りきることができる。
そうすれば、到達点のそばに小さな小屋があるので夜が明かせる。
全ては天候次第だ。

天気は曇りはじめた頃牛の舌にたどり着いた。
例年通り吹き上げる風は強い。気温も当然下がり続ける。
高さは約300m。途中に風をさえぎるような足場がある以外ほぼ平らな崖だ。
俺がまず登り始め、佐々木さんが後につづいた。

気温は下がり続け、手がかじかんでくる。吹き上げる風は強さを増すばかりだ。
二人とも黙々と登るしかない。と、俺の傍らの岩が崩れた。
「落石!!」
すぐさま声を出したが風邪に消されてしまったようだ。
「もっとでかい声出せないのか!!あぶねぇだろ!!」
佐々木さんに怒鳴られてしまった。
約1時間登り続け先導役を交代した。
「本当に5回しか登ってないのか?いいペースじゃないか」
「登ったのはもっと穏やかな時期でしたからね」
「今度は俺が先導する。とにかく登ろう」

先導を交代して佐々木さんの登り方を見ていたが、見とれるほど
鮮やかだ。壁に吸いついているかのように登っていく。
「落石!!」
「!!」
「大丈夫かぁ!!」
「避けました!!」

風は吹きやむ気配すらない。落石は次々襲ってくるがその都度
大きな声が響き渡る。
登り続けるにつれ、「いったいどこでビバークしているんだ」と思い始めた。
ようやく中間点の窪地に着いた。が佐々木さんは黙ってたたずんでいた。
「どうしました?」
「これを見ろよ…」

なんと…
人の首である。三人分だ。手足は胴体から離れ人数分もない胴体も
避けて千切れていた。
「こりゃ、登り始めてすぐに叩きつけられたな…」
「しかし、なんて軽装だ…。ザイルもないじゃないか…」
「山を甘く見た素人の末路だな。とにかく弔わなくっちゃな」
二人で遺体を分担してリュックに詰めた。頂上まで行かなかった分
今日中には山小屋に戻れる。

吹き上げる風は相変わらず強い。落石に注意しながら下山した。
そして山小屋で待っていたものは…
遺族たちの罵声だった。
「あんた等がさっさと行けば息子達は助かったんだ!!」
「あんた等が殺したんだ!!」
「それでもベテランのつもりか!!」
罵声に耐えかねた俺は言い返そうとした時、佐々木さんが先に
「いい加減にしねぇか!!仏さんの弔いもしねぇで馬鹿にすんな!!」
遺族は恨めしい目付き遺体を引き取り引き下がった…
「今日はもう遅い。車がない以上、ここで休むしかあるまい」
「なんなんだあいつらは」
「まぁ、あんなもんさ。何も知らない連中はな」

翌日寮に戻った俺はすぐに会社に行ったが上司の怒りが待ち構えていた。
そう、遺族は電話1本、手紙1通の連絡もしてくれなかったのだ。
事情を話したが取り合ってもらえず、仕舞には前科者はと言われ
解雇されることになった。
「畜生!!なんでなんだ!!」
怒りがこみ上げるが無力感もこみあげてきた。
「また、裏街道に戻るか…」
夜の酒場を歩いていた

「…」
「おーい、加賀谷ぁ~」
誰かが俺を呼んだ。
「おぉ、いたいた。探したぞ」
「佐々木さん、どうしてここに?」
「会社に戻ったらな、何の連絡もなかったんでな、もしかしたらお前もと思って聞いてみたんだ。そしたらクビにしたって言うから」
「…!!」
「でな、俺の会社、まぁ小さな工務店なんだが人募集しててな、
よかったら俺んとこで働かねぇか?」
「エッ?!」
「なにを、ハトが豆鉄砲くらった顔してんだ。まぁ突然だからな。一杯飲みながら話そうや」
「ありがとうございます」

「…山よ…人の絆…人の縁を…ありがとう…」

<終わり>

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2011/04/22 23:32
最後にちょっと良い話になりましたね。^^

しかし最近は用具の呼び方からドイツ語が消えてきているようですね。
(「ザイル」、「アイゼン」、「ハーケン」、「カラビナ」等々)
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2011/04/22 00:04
ハッピーエンドは大好きです。
友人ができる。いいですね。

才能がおありです、提督。
小説家をめざしますか?
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2011/04/21 19:45
((((((;´ロ`)σ
  私 怖いのダメなんよwww (>ェ<;

主人公 加賀谷さん
 大変だったけど…まぁ ハッピーエンドなんよネ?!!よかったd(´∀`●)ネッ!!! 
でも…怖かったww (ノ_・。)
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2011/04/21 17:17
淡々としながら結構すごい展開でしたね^^;
なんか佐々木さんにいい所全部持ってかれちゃった感じ〜
主人公も頑張ったのにね。
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2011/04/20 22:35
あかるいとは いえないかも しれないけれど
えにしを かんじられる おわりで よかったです。
とちゅうは ハラハラしました。。。
ほんとうに どこで わるく おもわれて
どこで よくおもわれるか
わからないですね。。。
でも、 きずなは だいじに していきたいです。。。




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