古の碑文:前篇
- カテゴリ:自作小説
- 2011/07/15 16:31:21
『あっついなぁ~』
『仕方ないわよ。ここは北回帰線の真ん中で、今は夏の盛りなんだから』
『しかしまぁ、こんな暑い中、グナイゼナウ先生はよくやるよ』
『大きな碑文が出たんだもん。放っておけないでしょ』
私はカール・フォン・クラウゼヴィッツ。一応考古学者のはしくれ。
特技は時代転送とサイコキネシス。普段は制御用の腕輪をしているが
これを外せばタンクローリーぐらいは手を使わずに浮上させられる。
一緒にいる女性はマリー・ガーネット。同僚で大学の後輩で恋人。
グナイゼナウ先生とは、私の大学の恩師で国で一、二を争う考古学の重鎮。
私はこの先生の下で発掘活動をしており数々の発見を共にしてきたが
考古学は発見より、その後の解釈が重要な学問であると思っている。
私は時々意識が過去に飛ぶことがあり、この能力が数々の新説と結び付き
20代にもかかわらず教授の地位を得ている。
砂漠を歩くこと3時間。車とガソリンスタンドが乏しいこのカラリクス島では
馬か徒歩が主な交通手段である。
『先生~~!!』
『おぉ、来たな、カール』
『これが噂の碑文ですか。でかいですねぇ』
『うむ、古代カラリクス文字が書かれている。大発見だぞ』
『今は冷たい水が宝の山より魅力的なんですが』
『テントはそこだ。早速解読に…か…
『ちょ…、カ…、…ちょ…
意識が…
額が冷たい。涼しい風が頬を撫でる。ここは…砂漠ではなさそうだが…
どこだ…
『気づかれましたか?』
『エッ?貴女は誰ですか?ここは…いったい?』
服装がまるで違う。長い髪を腰のあたりまで伸ばし、冠をつけていることから
高貴な方のようだが、誰だ?
『私はこの国の王女でミノスと申します。泉のほとりで倒れている貴方を見つけ
王宮の客間にお連れしました。お名前を伺ってよろしいかしら?』
また、過去に飛んでしまったのか…。頭を抱えたくなる。
『私はカール・フォン・クラウゼヴィッツ。考古学者です。』
『どちらからいらしたのですか?』
『ちょっと説明が出来かねますが、貴女とは違う時代の者です』
夜はだいぶ更けている。
『今は西暦何年ですか?』
『西暦?今年はパルドクス暦35年です。パルドクスとは私の父です』
西暦以前の時代だということは明白だ。ましてや王の名を暦にする時代。
そうとう過去だ。
『しかし、見ず知らずの私をこのような場所に連れてきたということは
何かあるのですか?』
王女は顔を曇らせた。そして押し殺したような声で語りはじめた。
『実は泉のほとりで貴方はバーバルという巨獣と格闘されていて
見事に退けたのです。憶えておられませんか?』
『さぁ?』
『そこでお願いがあります。私の王国を救ってください』
『???』
王女の話はこうだ。
5年ほど前にジャネスという予言者がカラリクスにやって来て王に取り入り
神官の地位を得てしばらくして、神の名を語り反乱をおこし国王夫妻と
兄弟を殺してしまったそうだ。
数々の予言が的中していることから国民は恐れおののいていたが
実は預言者ではなくシャーマンだったということが明らかになった。
王女は近隣の国との婚姻外交の為に生かされていたが、それも近々
遠い海の果ての王国に嫁がされることになるそうだ。
王女はシャーマンのジャネスから国を取り戻し国政を立て直したいと言うのだ。
『さて、それは大仕事ですが、私1人にやれと?』
『唯一の味方はリョウ将軍なのですが、監禁されています』
『では、私1人でシャーマンのジャネスを追い出さなくてはならないのですね』
『申しわけありません。3日後に建国記念の武闘会が開かれます。
それに参加して頂けませんか?』
『…』
『お礼は、…』
そういうと王女は後ろを向いて肌着を下し背中をあらわにした。
が、震えている。
『王女、貴女はいくつですか?』
『15歳です…』
『未成年がそんな真似をするべきではないですね。久しぶりに暴れましょう』
そう言って、私は両手首の腕輪を外した。
3日後、武闘会場は強烈な日差しと観衆に満ちていた。
シャーマンのジャネスが宣言する。
『これより武闘会を開催し、旧国王とわらわの統治のどちらが神のご意思に
即しているか皆の前で明らかにする。双方の闘士、出ませい』
続く