Nicotto Town


メルカッツ提督苺


古の碑文:中編

観衆の大きな声の中、武闘場に私は残った。
『第一試合、闘士カール対バーバル。はじめ!!』
巨大な檻が出てきた。中から肩の高さが私の背丈よりもある山猫のような
肉食獣が出てきた。激しい唸り声をあげて牙をむき出しにして脅してくる。
『そのバーバルは3日間絶食している。簡単には引き下がらないぞえ』
ジャネスは面白おかしそうにつぶやいた。

バーバルは毛を逆立てながら私の周囲を歩きはじめる。飛びかかる
タイミングを図っている。
私もバーバルを正面にするように身体を移動させ、闘気を高めていった。
にらみ合いが続くが、先にバーバルが飛びかかってきた。
両前足の爪をむき出しにし口を大きく開けて噛みつくようだ。
が、バーバルの爪は私を切り裂くことはできなかった。
両前足は私の頭を包み込む形で止まっている。盛んにうなり声をあげる。
が、バーバルは動けない。盛んに頭を振っているが前足は動かない。
闘気が前足を包み込み押さえつけているのだ。
やがておびえ始めたバーバルはしり込みしつつ震えはじめた。
うなり声はいつしか悲しい叫びとなっていった。
両前足を掴みひきはがすように突き離すと、檻に向かって走り出し
縮こまってしまった。

『えぇ~い、情けない!!早々に引きづり出せ!!次はケルスじゃ』
歓声はざわめきに変わった。
再び檻が出てくると中から灰色の巨大な山犬が出てきた。それも五頭。
それぞれが牙をむき私の周囲を囲んでいく。じりじりと近づいてくる。
闘気だけでは対処できそうもない。
五頭は一斉に飛びかかってきた。が、若干の差はある。
囲みの隙をすりぬけ、すれ違いざまにわき腹に闘気を叩きこんだ。
次々に闘気を繰り出し全てを悶絶させた。
『なんという体たらくじゃ!!次は…』
『次はあんたが出てきな。シャーマン・ジャネス!!』

『わらわと闘うと言うのかぇ。うぬぼれおって!!』
『いつまでも獣とやっても仕方ないだろう。こいつらに国政を任せるわけじゃなし』
『よかろう。わらわが直々に手合わせしよう。後悔するなよ』
掛け声とともに武闘場にジャネスは降り立ち空は急に黒雲に覆われた。
『天地の事象をわらわは操れる。覚悟するのじゃな』
観衆からはおびえる声が聞こえてくる。雷鳴が低く裏り始める。
『イナヅマよ、あれ!!』
腹に響くような低音とともに周囲は白一色に包まれた。武闘場に落雷したのだ。
私に直撃した。が、右手をあげカミナリを掴み捕っていた。
『なに?!雷撃を掴み捕っただと?!』
『喜んでいただけたかな。この程度の芸当で』
『えぇ~い!!イナヅマよ!!』
同じ事であった。
『では、利息付きでお返しさせてもらおうか!!ヘルズ・フラッシュ!!』
闘気を高めて身体の周囲にプラズマを発生させ、電離した気体を放ったのだ。
『?!』
ジャネスの衣装は黒焦げができ顔や手には火傷ができた。
雲は徐々に晴れてくる。
『さぁ、立ち去れ!!ここは貴様のいるところではない!!』

観衆は歓喜の声をあげ始め石や手近なものをジャネスに投げ始めた。
『覚えていやれ!!これで終わりだと思うでないぞ!!』
逃げだすジャネスの姿に観衆はわきはじめた。
王女ミノスは静かに武闘場に現れ『ありがとう』と言いつつ涙にむせんでいた。
『まだ一仕事あると思いますよ』
『えっ?』
『ジャネスはこのまま引き下がらないでしょう。それに旧国王派に
反発する勢力もあるはず。今は早急に支持基盤を固めることです』
私の忠告は真摯に受け止められ、ジャネスに迫害されていた人物は次々と
解放されていった。
その人物たちを中心に、軍や行政府が整備され始めたとある夜。
カラリクス王国の神聖地とされるタルタロス山が青白く光りはじめた。
王宮の人々はおびえ始め、恐怖に震えた。
が、1人リョウ将軍だけが臨戦態勢を整えさせ、軍の士気を鼓舞していた。
『将軍はあの光をどう思いますか?』
『おそらくジャネスの悪だくみでしょう。あの者が天変地異を自在に
操れることは皆が知っています』
『では、明日あたりに決戦となりますかね?』
『おそらく。カール様、お手を借りてよろしいですか』
『乗りかかった船です。最後までお付き合いします』

二人の会話に王女が割って入った。
『では、私も戦場へ赴きます』
これには将軍が驚いた。
『王女殿下、それはなりません。殿下には王宮にて戦勝の報告を
お待ちください』
『いえ、この度のジャネスの件はわが父の浅慮が招いたこと。最後まで
私は見届ける義務があります』
『しかし!!』
『いいではないですか。王女の護衛は将軍がすればいい。士気も上がります』
『では、明日は戦場を共にします』
『御意』

『いよいよ決戦だ。しかし、こんな遠い時代で俺は何をやっているのか』

続く





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