Nicotto Town


メルカッツ提督苺


古の碑文:後篇

夜も明けきらぬ空の下、城門を叩く伝令の声で静寂は破られた。
『大変です!!多数のアッガスが東の平原から城に向かっております!!』
場内は色めき立ったが、テラスに将軍に付き添われた王女が出てきて
静まり返った。
『皆の者、ジャネスの専横により我が父王は殴殺された。全ては父の浅慮から
始まったことではある。しかし、その罪は我が民には無くこれ以上無用の血を
流させるわけにはいかぬ。本日今日を新たなカラリクス建設の為
皆の力を貸してほしい』
兵たちは知らず知らずに叫び始めた。
『ジャネスに死を!!』
『王女殿下に忠誠を!!』
『カラリクスの誇りを!!』

王女と将軍を先頭に5千あまりの兵団が城を出た。
私もその先頭集団について行った。

東の平原はタルタロス山の麓に広がっている。
泥の巨人の集団が地響きを響かせながら近づいてくる。
他にも巨人の足元にはケルスやバーバルの群れが千頭以上いる。
ジャネスの号令の下、獣たちは襲ってくる。
『将軍、これでは太刀打ちできません』
『一人で相手をするな!!十人一組になって各個に撃破しろ!!』
戦闘は雪崩式に始まり兵士たちは将軍の指揮によく従ったが、数が違う。
徐々に押され始める。
『将軍、火矢の準備はできていますか?』
『は、カール様、弓兵隊に準備はさせております』
『獣は火を怖がるでしょう。彼らの集団に向けて一斉に撃つのです』
『火矢だけで大丈夫でしょうか?』
『投石兵に油の壺も投げさせましょう』
『なるほど!!おい、弓兵と投石兵に今の指示を伝えろ!!』
効果は徐々に表れてきた。集団を分断された獣たちは各個に縦横から
槍や剣を突かれ数を減らしていった。
『えぇい、なんと言うざまじゃ!!アッガス、王女の軍を踏みつぶすのじゃ!!』

巨人が動き始めた。城の天守にも背が届こうかという巨体が近づいてくる。
兵達は退きはしないものの、おびえ始めてきた。
『カール様、何か良い手はありませんか?』
『あの巨人は自分の意思で動いているわけではないようですが』
『その通りです。呪術によって作り出されたもので創造主に従います』
『では、弓を』
『無理です。ここからではジャネスに届きません』
『風が、追い風ですね。将軍、弓を貸して下さい。これでも弓は得意でしてね』
カールは目一杯に引き絞り、豆粒のようなジャネスの頭に狙いをつけた。
『歴史を本道に戻させてもらうぞ!!』
撃ち放った矢は数瞬の合間でジャネスの眉間を貫いた。
絶命である。
その瞬間、アッガスは動きを止め泥の山へと崩れていった。

獣たちも散り散りになり平原から消えていった。
兵士たちの勝利の歓声の中、ジャネスの死体を見た王女は目をそむけた。
既にミイラとなっていたのだ。
『カール様、おかげで我が国も平穏が戻りました。どうか末永く我が国を…』
『王女殿下、私は違う時代のよそ者です。元の世界に戻らねばなりません』
『カール殿、そのようなことを言わずに』
『いえ、ダメでしょう。ほら、手足が消えかかっています。私の役目は
終わりました。今後の国政は貴方方の方にかかっています』
『では、貴方のことを伝えるための碑文をつくります。それを見つけて…

また意識が空を飛んでいる。

『…ール、カー…
『…、クラウゼヴィッツ。しっかりしろ!!』
暑い日差しを遮るテントで横にさせられていた。
『あぁ、マリー、先生も』
『突然倒れたから焦ったぞ。大丈夫か?気分はどうだ?』
『カール、もしかして…?』
『うん、可愛い王女様にあってきたよ。あの碑文ができる前の時代にね』
『へぇ~、可愛かったんだ。じゃぁ、戻ってこなくてもよかったんじゃないの』
『あの時代では、俺はよそ者だからね。それよりも先生、あの碑文の解読
やらせてください』
『おぉぉ、それはぜひとも頼みたい』
(『時代を超えた、私への伝言みたいですのでね』)
『カール、何か言った?』
『いやいや、また手伝ってくださいましねぇ』

終わり





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