Nicotto Town


メルカッツ提督苺


昔々

ゆるやかに流れる川に寄り添うように集落と畑のある村に一人の僧侶が
足をとめた。
川のほとりに小さな小屋があり僧侶は一晩そこで休むことにした。

その晩、川に怪しげな灯りがともった。一つ、また一つ…
僧侶は訝しげに見つめていると灯りの数は増えるばかりだった…
灯りは夜が明けるまで灯り続け川辺を滑っていた。

僧侶は明け方から近隣の民家を訪ね歩いた。
『夜中に川にともった灯りは狐火などではない。何かこの世の未練だ』
ところが村人の口は重く閉ざしている。
『どうした事だ』
僧侶は途方に暮れた。一日中訪ね歩いてなにも手掛かりがない。

夕暮れ時、土手に腰をおろしていた僧侶に一人の農夫が近づいてきた。
『お坊様、川の灯りをご覧になったですか』
『うむ、昨晩川一面に灯り滑っていた様子を見ておりました』
『そうですか。実はここ数年今の時期になると灯りますだ』
『ほう』
『実は、昔こんなことがありましただ』

農夫は辛そうに言葉を続けた。
数年前、川でとれるアユの量が少なくなったために鵜飼を禁止するお触れが
領主より出されたこと。
ところがそのお触れが出た直後に鵜飼をしていた漁師が一人見つかり
領主からの厳しいお仕置きを恐れた村人はその漁師を殺してしまったことを。
『なんと言うことをしたのだ…』
川に怪しい灯りがともり始めたのはその直後からだと。

『つまり、その漁師の怨念だと言うのだな』
『はい、まったく早まったことをしたと思っております。しかしどうしたらいいか…』
『わかった、私がなんとかしてみよう』
農夫の重い口ぶりから察するに、村人は皆すまないと思っているらしい。
僧侶はその晩、瓦で念仏を唱え始めた。

川辺には再び明かりがともり始め、前の晩と同じように川面を滑っている。
夜半が過ぎ一刻が経とうとした時、一つの灯りが僧侶に近づいてきた。
薄らと人の姿が浮かび始めた。
『そなたは、村人に殺された漁師かな?』
僧侶が尋ねた。
『はい、そうでございますお坊様』
『何か気に病むことでもあるのかな?』
『はいお坊様』
『どのようなことかな』
『はい、私は殺されたことに恨みはありません。むしろ申し訳ないことをしたと
思っております』
『では、なぜこの川辺に留まっておる』
『実は私は耳が不自由で字も読めません。ですからお触れのことが
わからなくて…』
『うむ』
『ですから殺されたことは…。ただ、もう少しここで漁をしてみんなの役に…』
『その思いがこの地にそなたを縛り付けているのだな』
『はい、お坊様、どうかお助け下さい』
『わかった、引き受けよう』

夜が明けるとともに、川の灯りは消えていった。
僧侶は村長を訪ね事の次第を話、こう付け加えた。
『今宵よりひと月の間川原で法要を行う。村人にそれを伝えてください』

僧侶はその晩から川原に下り、石の一つ一つに経典の一文字を書き記し
川に投げ込んでいった。
僧侶は夜が明けても日が沈んでも念仏を唱えながら書き続けた。
はじめは怪訝な顔で見つめていた村人も、一人二人と手を合わせ念じるように
なっていき、僧侶に食事と茶を持ち寄るようになった。

僧侶はそれらを気に留めることもなく、念じ続けた。
気がつくと、日が経つにつれ川辺に灯る灯りが少なくなっていった。
やがて漁師が姿を現し、鵜飼をする姿が映り始めた。
そして、夜になり村の老人が川辺に集まり僧侶とともに念じ始めた。
村人は、今まで恐れるばかりだった漁師の霊魂を成仏させようと誓いはじめ
僧侶とともに念じていった。日を追うごとに増えていった。

そしてひと月が経とうとしている晩に漁師が再び姿を現した。
『すまねぇ、すまなかっただ』
『申しわけねことをした』
村人からは誰からともなく詫びを口にし始めた。
『おら、何も怨んじゃいね。むしろ申しわけねことしたと思っている』
『いや、とんでもね。申しわけなかっただ』
『おらはただ、また鵜飼がしたかっただけだ。皆の役に立ちたかっただけだ』
『申しわけねぇ』
『でも、もう気が済んだだ。今晩限りだ。皆おらの最後の鵜飼見ていってくれ』
村人は一様に涙を浮かべた。

漁師の霊は見事な鵜飼を村人に披露し、夜明けとともに消えていった。
漁師の霊は静かに姿を消していった。

僧侶は村長の仲介で領主に目通りし事の顛末を話した。
領主は自らの軽はずみな触れを恥じ、村長に詫びた。
村人は集い、僧侶にこの地にとどまることを願った。しかし一瞥した僧侶は
『愚僧は諸国を流れ歩く方が性に合っている』
そう言ってわずかな選別の身を受け取りまた旅に出た。

その後の村は静かな平穏を取り戻したと

アバター
2011/10/02 22:57
(●´艸`) ホント!!ええ話やん♪
 そして…おきらくさん!ええ人やん♪
アバター
2011/10/01 07:57
ええ話やん♪
1か所だけ…

誤り 僧侶はその晩、瓦で念仏を唱え始めた。

訂正 僧侶はその晩、河原(川原)で念仏を唱え始めた。

河原でも川原でもいいともうけど、直しておいた方がよいと思う。
直したら、このコメ削除しておいてね。




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