Nicotto Town



女子トイレ潜入男の孤独

  【女子トイレ潜入者の孤独】
 
 10月の朝、少し高くなった陽差しは、優しく地上に降り注ぎ
 所々にある掠れたような雲が、高い空をゆっくりと流れて行くのが
 窓から見える。

 陽射しを浴びて輝いている、緑の薄くなって来た街路樹の葉が
 時折、風を受けて小さく揺れている。

 気持ちの良い朝の眺めだったが、これから満員電車に揺られながら
 通勤しなければならない事を思うと、あまり爽やかな気分になれなかった。

 僕は慌しく混雑している駅に、向かう途中、駅前の比較的大きい喫茶店で
 コーヒーを啜りながら、脳内から少しでも(やる気)を引き出そうと          
 空しい努力を続けていた。
 
 しかしそんな意味の無い試みは空いている店内の奥の方の席から
 聞こえてきた、時ならぬ若い女性店員の甲高い声で破られた。

 「お客様先ほど女子トイレを使用なさいましたよね。...男子トイレの方が
 開いてるのにどうしてそちらを....失礼ですがお客様以前から...
 そういう事は大変困るんです。...今後この様な事が御座いますと...」
 
 早口で矢継ぎ早にまくし立てている、女性店員の目の前の席には
 一人の若い男が座っていた。
 
 彼は別に内向的性格とも思えないごく普通の印象の若い男だった。
 
 イメージで言えば彼が「僕は県庁職員です。」と言えば僕よりよっぽど
 信用されるだろう。
 
 彼は店員にまくし立てられている間、時々まるでそこから何か気体が
 漏れているような声にならない相槌を打っていた。

 彼はその間身動き一つせず、顔には表情と言えるものが
 まるで浮かんでいなかった。
 
 或いは彼は全身で「我輩は彫刻である。」と言う演技表現を
 やってる最中だったのかも知れない。
 
 その間僕を含め、店内にいた数人の客は「無関心な人々」という
 演技テーマを与えられ、その台本通りの演技を心がけつつも
 意識を耳に集中し、時々(何気ない)視線をそこに送った。
 
 言う事を言い終わると女性店員は足早にそこを去っていった。
 
 (舞台監督)がその場を去ると彼も(オーケー)を出された我々も元の
 (朝の喫茶店の客)に戻っていった。
 
 (彼の様な場面に立たされるととてもいたたまれないだろうな...)
 と、僕は思った。
 
 いつも思う事なのであるが痴漢し好者者等はそう言う事までは
 考えないのでだろうか。

 彼ら自身が一番自分自身に当てはめて考えそうなものなのだが...

 しばらく、そんな事を考えた後、僕は伝票を掴んで、彼よりも早く
 店を出た。

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2016/05/02 00:11
読みに来ました
2016年から来た未来人です

いや~~~!
女子トイレ潜入男って普通に痴漢じゃないですか!
けど店員さんに指摘されて反論無いってことは
自白も同然ですよw
けどカメラ仕込む輩もいるから ホントなら警察呼ぶべき事案ですよね

無関心な人々の演技ww
こういう言い回しがお上手ですよね( ´艸`)

そして一番驚いたのは
かいじんさんがコメントにお返事してること!
初めのうちはやってたんですねw
何だか新鮮ですw
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2011/11/06 20:44
 まゆさん

 感想をいただきありがとうございます。

 まあ、こんな場面に遭遇すると、僕は傍観するしか
 手立てがありません(笑)
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2011/11/06 07:29
勇気を出して読んでみました・・・

主人公が傍観者に徹しているところがリアルで面白かったです。
みんなで見ないふりですね。
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2011/10/19 22:45
あびにゃんこさん

感想を頂きありがとうございます。
そうですね。

事実をそっくりそのままと言う訳では無いですが、これは実体験を
元に書いています。

僕にはこのやりとりに至る経緯の詳細がよくわからないので
あまり断定的な事は言えないのですが、確かに他のお客さんの
寛ぎのひと時に、この様な事は頂けないかも知れません。

ただ、声高に云々...って部分については、今になって考えると
事実とはやや異なるのかも知れないです(記憶が曖昧)

まあ、お客さんが安心して利用出来る様に云々って事も
あるので、全く無干渉って言う訳にもいかないの知れないが
じゃあ、どういったやり方が、と問われると僕にもとっさには
浮かばない。

いずれにしても、彼が結局なんだったかと言う事に関しては
僕にも全くわかりません...




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2011/10/18 10:06
とても視覚的で、場の雰囲気がよく伝わる文章だと思います。
私はこれは実際にかいじんさんが見聞きしたことなのかなぁ?と思いつつ読みました。
だとすると、この女性店員は接客業として失格だなと・・・。
他の大勢の客の前で声高に客に文句をつけるなんて・・・もし、それが変態痴漢男だとしても
やっちゃいけない行動だと思いました。
どうやら違うようですが。
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2011/10/17 20:53
 雨宿さん
 感想を頂きありがとうございます。
 とにもかくにも何とか、まとめた甲斐がありました。
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2011/10/16 21:36
良いインスピレーションを頂きました。

お話も流れも好きです。
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2011/10/15 00:30
パールくんさん
 
何らかの自衛手段とか(手は極力高い所に置くとか)必要なのかも知れないです。
何かと隙を見せられない世の中...
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2011/10/15 00:04
lazu330さん
感想頂きありがとうございます。

日常生活は或いは演技の連続かもしれません...

もっとも僕には演技力も無いですし、ロクな役が回って来ません(笑)
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2011/10/15 00:02
性の違いなのかなぁ。。。
男性でも、まじめに生きてるのに、いきなり痴漢の冤罪で人生を潰されている人がいるみたいです。
僕の友人の同僚がそんな立場で、厳しいらしいです。
あることよりも、無いことを証明するのは、ムズカシイようですね。。

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2011/10/14 15:01
雰囲気が独特でとても面白かったです^^タイトルも私は好きでした^^

『無感心な人々という演技テーマ』

とてもよくわかります笑 私もよくそのような演技テーマで演技していることがあります笑
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2011/10/14 00:48
パールくんさん

感想頂きありがとうございます。
多分、痴漢で摘発された人間に対して、どうしても男女間で、多少温度差があるかも知れません。
僕なんかは、どうしても多少は、哀れみを感じてしまいます。
まあ、身から出た錆びなんですけど...
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2011/10/13 21:26
面白くって、引きこまれました
トイレ潜入者は、どういう気持ちで晒し者になってたんでしょうね~
自業自得ですね。
僕は痴漢、憎むべき存在だと思ってるのでww
(中身女ですので^^)

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2011/10/10 23:20
 スイーツマンさん
 
 感想を頂きありがとうございます。
 そうですね、タイトルの付け方が、動画サイトの(釣り動画)のタイトルみたいになってます。
 女性の方は、このタイトルだけで、嫌悪感を抱く様な気もします(笑)
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2011/10/10 05:19
問題提起と社会風刺のある良作だと思います。
ただ、タイトルが刺激的で、読み手の側がポルノと誤認して
ひいてしまうリスクも考えられます。
商用の場合は掛けですね。



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