Nicotto Town



雨の日

雨の日は...憂鬱だ。

しかし今日も空は一面ぶ厚い雲に覆われて、朝からずっと雨が降り続いている。



「すぐに戻って来るから、それまで、ここで待っていなさい。」


僕が4歳の時、僕の母はそう言って駅の外に向かって歩き出し、やがて傘を開い

て駅の外に出て行った。


空に雲がたち込め、雨が降りしきる中、夕暮れ時の駅前の人混みの中に

足早に消えていく母の後姿を僕は今でも覚えている。

それが僕が母を見た最後の姿だった。

母がいなくなった後、やがて空が暗くなり、さらに時間が過ぎて

駅を行き来する人の数が次第に少なくなりはじめても

駅の外では、雨がずっと降り続いていた。

僕はその長い時間、駅の中の柱の所に、ずっと立ち続けていた。

駅員が僕に近付いて来て、僕に話しかけて来る、その時までは・・・


あれから15年が過ぎた。


僕は窓から雨が降り続いている外の風景をぼんやり眺めている。

雲に覆われた空の下に広がっている

雨に濡れそぼった 昼下がりの街並みの風景は

七階にあるこの部屋の窓から眺めると

何と無く人々に忘れ去られた無数の遺跡群が

広大な荒野を埋め尽くしている

様に見えた。



「雨、強く降ってる?」

少し薄暗い部屋の中のベットの上で首から上だけを覗かせている多可子が

僕にたずねて来た。

この部屋の窓からでは、わかりづらいけど、雨は強くも無く、弱くも無く

朝からずっと 同じ強さで降り続けている様に思える。


僕がそう答えると、多可子は少し顔をしかめて見せ、それから天井に向かって

大きなため息をついた。

なんでも、明日は小学三年生になる彼女の上の娘の誕生日で

今日はこれからその為の買い物を済まさなければならないらしい。

プレゼントの方は彼女の旦那の方が用意する事になっている。


この部屋に戻って来る前、待ち合わせていた駅前の喫茶店で

彼女はそう言っていた。


僕は相変わらず、窓の外に見える雨の街の風景を眺め続けていた。

何だか自分が雨が降りしきる中、 遺跡に埋め尽くされた荒野を眺めながら

行くあての無い旅を続けている様な気分だった。

「一体、いつまで降り続くのかしら。

・・・本当に雨の日ってイヤだわ。」

多可子が天井を見つめながら、そうつぶやいた。

彼女が今、心の中で何を考えているのかは、もちろん僕にはわからない。

今日は朝から雨がずっと降り続いている。

窓の外の街並みに・・・

僕の心の中に・・・

雨はずっと降り続いている。

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2011/12/14 21:13
スイーツマンさん

コメントありがとうございます。
この作品は実は自作倶楽部とは他の所に投稿した作品なんですが、
(母)と多可子は似ているとか、スイーツマンさんと同じ様な
意見が多かったです。
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2011/12/13 23:42
リバーシブルというのか
不倫相手がこちらにくることで
その子供の前からいなくなる
子供もまた同じことをするのだろうか
そんなふうに感じました
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2011/11/29 21:32
まゆさん

コメントありがとうございます。

芥川風に言うと(漠然とした不安)

何の作品だったか、はっきりとは思い出せないですが

村上春樹さんの作品(多分、風の歌を聞け)で

持っている者は失う事を恐れ
持たざる者は、ずっと持てない
事を恐れる。

と言う意味の表現がありました。
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2011/11/29 21:21
やあさん

コメントありがとうございます。

どこにも持って行き所の無い、そう言う感情を表現したかったんだと
・・・だったと思います(笑)
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2011/11/29 20:26
幼い頃、同じような夢を見て、おかあさんと叫んで目が覚めたことをおぼえています。
お母さんがいなくなる不安は、誰にでも体験があるのではないでしょうか。
人の心の闇の一部ですね。
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2011/11/29 09:47
なんだか切ないね。

降り続く雨のように、気持ちが晴れない関係を想像してしまったよ・・・。



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