タイトル　　「1Ｑ８４」

９月２５日
　
　　　
時刻は既に午後の九時を廻っている。

　　
首都高速５号線の高架下の通りを走る車の数もかなり少なくなって
来た。

看板に夜の一時まで営業と書かれているスーパーの
前に通りかかった時、店内を流れている曲のメロディーが
聞こえて来た。

　♪　夢に見る姿の良さと　美形のＢｌｕｅ　Ｊｅａｎ　
　　　体と欲で　エリ好みのラプソディー・・・・　♪

曲の名前までは知らないが、この曲自体は聞いた事がある。
　
僕の母がサザンのファンだったからだ。

　　
僕は聞き覚えのあるメロディーに耳を澄ませながらそのまま
スーパーを通り過ぎて行った。
　
　・・・それにしても、もうだいぶ歩き続けている。
　
もうかれこれ、五時間位は、あてもなくただ歩き続けている。
　
こんなに歩き続けたのは、１８年間生きて来て生まれて初めての
事だった。

僕は先程通り過ぎた道を、もう一度池袋駅の方に向かって
引き返して歩いている。
　
目の前のずっと先、通りの突き当たりに建っている西武デパートが　少しずつ大きく見える様になって来た。
　　
しばらく歩くと僕は再び、都電の線路との交差点にぶつかった。
　
通りの信号が赤になると、停留所から早稲田行きの電車がゆっくり　と走り出し、モーター音を響かせながら通りを横切って行く。

　

通りを横切った電車は徐々に加速を速めて行き、やがてその車窓 から漏れる明かりは、雑司が谷の方の暗がりに向かって　遠去かって　行った。
　
僕は電車が出て行ったばかりの、停留所のベンチに腰を掛けてる事　によって、ようやく歩く事から解放され、一息つく事が出来た。
　
ベンチに腰掛けた僕は大きく息をつき、それから少し前かがみに
なって目の前に見えている光景をぼんやりと眺めてみる。
　
視線の先にはもうすっかり夏の名残りの様なものも消えうせて、
少し冷気を感じる程になって来た九月下旬の夜空に向かって　
まだ半分以上の窓に照明が灯っっている　サンシャイン６０ビルが
聳え建っていた。
　
今、僕に聞こえるのは、様々な音が集積されて川の流れの様に
聞こえる夜の都会の静かなうねりの様な音だけだ。
　
僕は辺りを見渡して、周囲に人気が無いのを確認してから、
ポケットから携帯電話を取り出し、画面を眺めてみる。
　
　９ / ２５（木）　　２１：１２
　
　・・・・日付と時間は合っている。
　
ただし、今日は（正確には）火曜日なのだ。
　
・・・・携帯の電池は今の所はもっている。
　
　　しかし、今、充電器を持っていないので電池が切れた時点で
　この電話は使えなくなる。
　
・・・もちろん、電車に乗って埼玉県の川口市にある、自分の家　に帰れば自分の部屋に充電器はある・・・・。
　
しかし何事にも、それを成し遂げるには、その為の必要最低限の
条件が満たされていなければならない。
　
僕が僕の部屋に帰る為には、僕が両親と共に暮らしている
マンションが既に建っていて、尚且つ僕の両親が入居手続きを
済ませている　事が必要である。

しかし、現実と言うのはそんなに甘くは無い・・
　
いくら、僕が馬鹿だと言っても、それ位の事はわかる。
　
今日、僕は１８回目の誕生日を迎えて、１８歳になったのだが、
僕の父と母は、まだお互いに知り合ってすらいないだろう・・・
　
現実と言うものは時として、とてつもなく厳しいものだ。
　
その壁は今、巨大に厳然と確固として、僕の目の前に 　聳え立っている。
　
　
当たり前の事だけど、携帯の電波は（圏外）になったままだ。
　
僕的に見てこの間違いだらけの世の中で、今の僕が出来る事と
言えば、せいぜい自分の携帯電話の時間を合わせる事位なのかも
しれない。
　
僕は画面の各種設定から、時計を選択して時間を（正しく）合わせ　ようとした。
　
しかし、月日や時刻は変える事が出来るが、西暦は正しく変える事　が出来ない様だった。
　
まあいい・・・どうせ電池が切れてしまえばこれはただのガラクタ　になってしまうのだ・・・・
　
写真の一枚だって撮れやしない・・・・
　
もっとも、この東京のどこかに、いや、この日本のどこかに、
ドコモ・ショップがあれば話は別だが・・・・・・
　
僕はあきらめて、携帯電話をポケットにしまい、代わりに財布を 取り出してみた。

・・・

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実は「いけぶくろ日記」は、ここから多くを引用して書いた。

設定が1984年なのは、偶然で、3年ほど前に「7ＤＡＹＳ」のタイトルでミクシー
で書き始めて、この（9月25日・１）を書いた時点で放置（笑）

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・・・やっぱり長いのは難しいの（笑）