Nicotto Town



年末年始に腐ってみました 10

遠矢5

「だ…大丈夫?」
なんとか犬は追い払ったけど、トーヤくんが何箇所か噛みつかれて怪我をしてしまった。
「大丈夫のわけねーだろ。なんとかしろよ」
しかも、一度呪文を失敗したらしく、小さな火の球がトーヤくんに命中してしまったし…。
トーヤくんの言葉に、俺は慌てて傷を治す魔法を調べるため、本を開いた。
「えーと、えーと、偉大なる水霊王よ。その慈悲の心持ちて傷を癒したまえ…あれ?」
あ、あれ? 魔法がかからない。えーと、えーと、えーと…。
焦る俺の様子を見て、トーヤくんが「落ち着け」と言ってくれた。
「なんかよくわかんねーけど、魔法かけるには手も一緒に動かさないとなんねーんじゃなかったか?」
ああそうだ。言われて思い出した。
改めて腕を振りながら呪文を唱えると、指先から水が一滴ぽとんと落ちた。
そしてそれはトーヤくんの傷に触れるとすーっとしみ込み、それに合わせて傷が癒えていった。
よかった、今度はあっていたんだ。
「まったく手間のかかる奴だよな、お前。まあ…一応礼は言っといてやるけどさ」
そう言ってぷいっと横を向くと、改めて寝てしまった。
空には月が煌煌と輝いて、朝までにはまだ時間がありそうだった。
それで俺も横になり、もう一度寝ることにした。


まぶしくて目を覚ますと既に太陽は高く昇っていて、そして、トーヤくんはどこかへ姿を消していた。
慌てて起き上がって辺りを見回すが、どこにも姿は見えない。
呼んでみたけど応えもなかった。
どうしよう。起きるの遅かったから置いていかれてしまったのだろうか。
俺は慌ただしく毛布や松明の燃え残りの後始末をすると、急いで出発した。

どうしよう、どうしよう。
魔法失敗したから呆れられたんだろうか。それともやっぱり俺なんか足手まといにしかならないと思われたんだろうか。
泣いてる場合じゃないとは思うのに、拭っても拭っても涙がこぼれてくる。
「トーヤくーん」
歩きながら呼びかけてもみたけれど、返ってくるのは草が風になびくさわさわという音だけだった。

和也さん、和也さん…今すぐ会いたいです。




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