Nicotto Town



日曜日。平穏な朝、興奮の午後 2/3

・・・

東京10R 第4回ジャパンカップ(G1) 芝・2400m  (晴・馬場・良)

1枠  1番 ミスターシービー         (日)   吉永          3.3倍   1人気
2枠  2番 エスプリデュノール       (仏)   ムーア          5人気
3枠  3番 ダイアナソロン         (日)   田原
     4番  ベッドタイム           (英)   カーソン         2人気
4枠  5番 ウェルノール          (伊)   アスムッセン
     6番 ウィン               (米)   グレール         6人気
5枠   7番 マジェスティーズプリンス   (米)       マクベス          3人気
       8番 キーウイ            (新)   キャシディ
6枠  9番 カイザーシュテルン      (西独)  アプター
       10番 カツラギエース         (日)    西浦    40.1倍      10人気
7枠 11番 ストロベリーロード      (豪)    ビゴット
   12番 シンボリルドルフ       (日)    岡部            6.5倍  4人気
8枠 13番  バウンディングアウェイ        (加)    クラーク
   14番 バウンティーホーク       (豪)    ホワイト

・・・

「あっアダプターあった」

居間のこたつテーブルの脇で自分のバッグの中身をごそごそとやっていた
福沢加奈がそう言って何かのACアダプターを取り出して見てそれを
再びバッグの中に収めた。

それから彼女はバッグから厚さの薄い石鹸箱位の大きさの物を取り出して
2つ折になってるそれを上下に開いた。

彼女はしばらくのあいだ真剣な目つきでその開かれた部分を睨んでいたが
やがて僕がテーブル越しに興味深い視線を向けているのに気付いた。

「写真撮ってあげようか?」

福沢加奈が言った。

「それはカメラなのか?」

僕は尋ねた。

「いや、携帯電話だよ」

彼女はそれをテーブル越しに僕の方に差し出しながら言った。

「電話・・・電話にカメラが付いているいるのか」

その折り畳めば手のひらに収まるほどの小さな薄型の器具が撮影機能のついた
無線電話であるらしい事に正直驚いた。

僕がそれを手にとってみると、2つ折の上の部分が画面になっていて、下の部分には
電卓の様なキーボタンが並んでいる。

画面には僕の目の前のテーブルが映っていて手に持ったそれを上に向けると
正面にいる福沢加奈の姿が映った。

身を乗り出して来た彼女が手を伸ばして来て下の部分のボタンを操作すると
画面に今度はその画面を睨んでいる僕の顔が映った。

「おお!」

僕は思わず驚きの声を上げた。

「やっぱりメールの文章だけじゃ、その場の雰囲気を相手に送れないからねえ」

福沢加奈が言った。

「これでメッセージや画像をその場から送る事が出来るのか!」

僕は(平成)の五百円硬貨や千円札を見せられた時以上に彼女が未来から
来た僕と同い年の少女である事を実感した。

・・・

とにかく、家の中でジッとしていても今の状況は何一つ進展しない。

昼前、僕は福沢加奈と取りあえず家を出た。

演芸場通りに出て十条銀座商店街の方に歩いて行く。

途中、コンビニでスポーツ新聞を買って、それから駅前のマクドナルドに入った。

僕はセットのポテトを齧りながら買ってきた新聞に目をやる。

前日の大相撲九州場所14日目に横綱千代富士が朝潮を破って1敗を守り
2敗で追っていた大関若嶋津がその日敗れて3敗目を喫した為に、史上5番目と
なる10度目の優勝を決めていた。

しかし紙面トップは世界の強豪馬を集めての三冠馬初対決となる(ジャパンカップ)
の記事だった。

日本馬がこのレースではじめて一番人気に支持され、2頭の三冠馬が出走する事で
このレースでの日本馬初優勝が期待されている。

この2頭に立ちはだかる有力な外国勢として、イギリスのベッドタイム(11戦9勝)
北米でG1レース6勝を上げているアメリカのマジェスティーズプリンス、昨年のこの
レースで優勝したアイルランドのスタネーラから差の無い3着に入線した
フランスのエスプリデュノール等が挙げられていた。

出走表には、何人かの競馬記者の予想が◎〇▲Δで記されていたが、福沢加奈が
このレースの優勝馬だと言っている10番カツラギエースの欄は無印だった。

成績表を見ると前走の天皇賞(秋)は5着となっている。

しかし、あと3時間ほどで発走となるこのレースの模様を(実際に目にしている)彼女が
言っている事なので、僕らはこれから(僕にとっての)波乱劇を見に行く事になるの
だろう。

東京競馬場は遠いので僕らはこれから水道橋の後楽園場外馬券売り場に向かう事に
していた。

「そこは東京ドームのすぐ近くにあるの?」

福沢加奈が言った。

「東京ドーム?・・・いや、後楽園球場のすぐ側、後楽園ホールの手前にある」

僕が答えた。

僕らはマクドナルドを出た後、国鉄の十条駅から池袋行きの電車に乗った。

池袋で赤羽線から山手線に乗り換えて新宿駅まで行ってそこから中央線で
水道橋に行くのは面倒なので池袋から地下鉄有楽町線で飯田橋に出た。

地下鉄の出口から出た後、外堀通りを水道橋に向かって歩くと十五分かからない
位で後楽園球場の入り口に着く。

「♪ カープ!カープ!カープ広島!広島カープ~♪」

後楽園球場が近付いて、通りの向こうの神田川が線路の向こう側に向きを変えた
辺りで突然福沢加奈が(それ行けカープ)を歌いだした。

「♪ 空を泳げと 天もまた胸を開く ♪」

少し迷ったけど、ちょっと間を置いたあと僕がその先を続けた。

「♪ 今日のこの時を確かに闘い ♪」

それを聞いて福沢加奈がその先を続けた。

「♪ 大空高く~大空高く~栄光の旗を立てよ~♪」

二人で声を揃えて歌った。

「春介クンも広島ファンなの?」

彼女が目を輝かせて僕に聞いた。

「うん」

僕が答えた。

その後、昭和の広島ファンの高校生の僕と平成の広島ファンの高校生の彼女は
(それぞれの広島カープ)を語り合った。

「この年(昭和59年)のカープは強かった?」

彼女が僕に聞いた。

「うん」

僕が答えた。

今年、広島カープは、山本浩二(33HR、打率293)、衣笠(102打点で打点王)や
山根、北別府、大野ら投手陣の活躍でリーグ優勝、阪急ブレーブスとの日本シリーズ
は4勝3敗で日本一になった。

そんな事を話している内に後楽園球場に隣接した場外馬券売り場に着いた。

気持ち良く晴れた秋の日曜日の午後で建物の内外は多くの人出で賑わっていた。

これまでにその前を通った事は何度かあったけれど、建物の中にはいるのは
はじめてだ。

勝手がわからないので、僕と福沢加奈はしばらくの間、競馬新聞と赤ペンや赤鉛筆を
手にした人達で混雑している建物の中をうろうろと歩き回った。

場内のあちこちにあるオッズモニターの前に人だかりが出来ていて、真剣な目で
新聞とモニターを交互に見ながら考え込んだり赤ペンを走らせたりしていたが、
(優勝馬)の馬券だけを買いに来た僕らにはレースを予想する必要は無かった。

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2014/02/01 19:41
おおお^^

優勝馬の馬券^^

判っているだけにきっぱりと買えますね^^



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