Nicotto Town



日曜日。平穏な朝、興奮の午後 3/3

オッズモニターで東京メインレースの10レースのオッズを確認する。

単勝馬券のオッズと枠番連勝式馬券のオッズが表示されたモニターをみると
その時、10番カツラギエースの単勝オッズは40・6倍だった。

「ところで2着にはどの馬が入るんだ?」

僕は福沢加奈に聞いてみた。

「優勝したのがミスターシービーでもシンボリルドルフでも無くて、カツラギエースと言う
馬だったと言うのは覚えてるんだけど、2着の馬がどの馬だったかと言うのははっきり
覚えてない。 ・・・何となくこの4番のベッドタイムって言う馬だった気もするんだけど・・・」

スポーツ新聞の出走表を見ながらあまり自信の無さそうな表情で彼女は答えた。

僕は今自分の所持金として持っている一万三千円程の現金の内、一万円をこのレース
に投資するつもりでいる。

(10番の単勝を一万円)

取りあえず四十万円くらいのお金があれば、少なくともしばらくの間は彼女の
(昭和59年の東京)での生活を何とか出来るだろうという気がした。

「ワタシも3-6を200円買う。今のワタシが(ここ)でこれっぽっちのお金持ってても
意味がないもの」

今彼女がここで使えるお金(=昭和59年以前の硬貨)として285円を持っている
福沢加奈が言った。

(勝馬投票券発売窓口)の近くで馬券の買い方を見物してから、すこし離れた
窓口に買いに行く。

僕らはそもそもが本来馬券を購入できない高校生だし、10番人気の馬の単勝を
一点で一万円も買ったりするのは目立つような気がしたので違う窓口から
3回に分けて買う事にした。

「単勝10番3千円と枠連3-6、200円」

内心、緊張しながら格子窓越しに発券しているおばさんに告げる。

案外すんなりと購入できた。

馬券を購入し終わった後、まだ発走時刻までは一時間以上もあったので僕らは
人で一杯の場外馬券場を一度出て、ぶらぶらと水道橋の駅の方に歩いて行った。

駅のガード下を抜けてしばらくあても無く歩いている内に(競馬テレビ中継中)と
書かれた張り紙のある喫茶店を見つけた。

ガラス窓越しに中を除くと一つだけ空いたテーブルがあるのが見える。

人が一杯で落ち着かない場外馬券場に戻る気がしなかったので僕らは
その店に入った。

テレビでは丁度、第10レースの出走各馬がパドックから本馬場に入場して行く
最中で、僕ははじめてカツラギエースと言う馬を実際に自分の目で見た。

本馬場入場の後、馬番順に出走馬が紹介されて行く。

芝コースの上を足慣らしに軽く駆けて行くカツラギエースが画面に映し出されて
僕らは食い入る様にその姿を見つめた。

「さあ、いよいよ第4回ジャパンカップの発走時刻が迫ってまいりました!」

番組司会者の声に僕はだんだん心臓の鼓動が高まって来る。

僕らはレース結果がわかっているつもりだったけれども、それでも目の前で
実際に(リアルタイム)のその瞬間を見るまではどうしても不安と緊張を
抑える事が出来なかった。

(一万円を失う事なんてどうだっていい。しかしもしそうなったら・・・)

福沢加奈の方に視線を向けるとテレビを見つめる彼女の顔もこわばっている
様に見えた。

テレビ画面に制服姿の係員がゆっくりと台に登って行き台上で旗を振ると
それを合図に音楽隊のファンファーレ演奏がはじまった。

その後、出走馬が奇数番の馬から順番にゲートに誘導されて行って、すべての
馬がゲートに納まった。

ゲートが開いてレースがスタートした。

内側の何頭かがいいスタートを切ったが、すぐに外の方から一頭の馬がするすると
前に出て来てそのまま先頭にたった。

ゼッケン10を着けたカツラギエースがいきなり先頭に立ったので僕の鼓動は
思わず高まった。

直線から第一コーナー第2コーナーと通過していく内に先頭のカツラギエースは
少しずつ後ろとの差を広げていっている様に見えた。

(・・・ストロベリーロードも行きました!そのわずか前にスッと上がって行った
マジェスティーズプリンスであります!・・・そしてミスターシービーはいつもの
様にぽつんと一番最後から行っております!)

その間にも向こう正面に差し掛かったカツラギエースはただ一頭、後ろから
離れた先頭を走り続けている。

(カツラギエースが果敢に10メートル・・・20メートルとリードを伸ばしました。
2番手にはアメリカの強豪、ウィンが付けております。3番手にはフランスの
これも強豪エスプリデュノール、そしてその後の集団にシンボリルドルフが
おります!)

このレース展開を見て僕は(なるほど、この大きな差を最後まで守り切って
カツラギエースが逃げ切って勝つのだろう)と思った。

(ミスターシービーまだ最後方!さあカツラギエースがどこまで頑張る?
大逃げだ!大逃げであります!)

第3コーナーを通過する頃にはテレビからでも競馬場にどよめきが起こっている
のがわかった。

しかし残り残り600メートルの標識を過ぎて4コーナーを曲がりきるまでの
わずか100メートル足らずの間にその差があっという間に無くなったのを
見て、僕は思わずギョッとした。

(さあ、カツラギの逃げが鈍った!カツラギ鈍った!後続馬が追い込んでくる!
世界の強豪が追い込んで来ます!)

内側から伸びて来た4番ベッドタイムが400メートル標識でついにカツラギエースの
真横を捉え、外側からも14番バウンティーホークがすぐ真後ろにまで迫りさらに
その外には12番シンボリルドルフもいた。

僕は思わず福沢加奈の方に視線を向けた。

彼女は食い入る様な目でジッとテレビの画面を見続けている。

その後の展開に僕は興奮のあまり思わず声を張り上げそうになった。

前半の思い切った先行策で失速した様に見えたカツラギエースだったが
ベッドタイムに並び掛けられた後、再びじりじりとベッドタイムより前に出始めて
残り200メートル辺りでまたもや一馬身差まで差を広げた。

しかし外側からはシンボリルドルフとマジェスティーズプリンスが鋭い脚で
再び迫って来ていた。

残り100メートル。

(カツラギエースが粘る!カツラギエースを追ってルドルフ!ベッドタイム!
カツラギ来る!外からマジェスティーズ!・・・カツラギエースが勝ちました!」

カツラギエースが先頭でゴールを駆け抜けた瞬間、僕と福沢加奈はお互い
顔を見合わせた。

(結果を知っている)レースだったが僕らはどちらも歓喜と感動を抑えるのに
必死だった。

(カツラギエースが逃げ切りです!・・・カツラギエースが見事日本で初、
ジャパンカップを制しました!)

2着は1馬身半差でベッドタイム、シンボリルドルフはその頭差で3着、さらに
ハナ差でマジェスティーズプリンス・・・

ミスターシービーは10着に敗れた。

やがてレースが確定して配当が出た。

単勝式 10番 4060円  連勝複式 3-6 8110円

僕らは店を出て払い戻しの為に場外馬券場に戻った。

僕の買った馬券で40万6千円、彼女のお金で買った馬券の1万6220円を
払い戻した後、場外馬券場を出て、夕暮れが近付きはじめた中を僕らは
外堀通りを飯田橋の方に向かって歩き始めた。

僕らにとってあまりに大き過ぎる深刻な問題はまったくそのままだったし
これから先の事はまだ全くわからなかったけれど、取りあえずは少しは
安堵した気分で今日という日を終えられそうな気がした。

アバター
2014/02/07 21:22
ソビエト連邦崩壊の情報より、馬の勝ち負けの情報の方が役に立つとはw
アバター
2014/02/02 19:14
40万。すごい配当。このお金で二人は逃避行…
いや、あらたる馬券買い
はたまた株だ!
などといろいろ想像してます
アバター
2014/02/02 01:28
馬券で思わぬ大金
このお金で二人は何をするのでしょうね
アバター
2014/02/01 19:46
わわわ^^; 臨場感溢れる表現に、読みながらどきどきしちゃいました^^;

絶対勝つとわかっていても、接戦になると手に汗を握りますよね^^;

アバター
2014/02/01 07:56
未来から来た少女の記憶に懸けた主人公の心情が、レースの経過と共にどんどん膨らんでいくところにワクワク感が広がりました。
私も馬券当てたいです!^0^
アバター
2014/02/01 07:06
【感想】
 (モテない?)主人公高校生男子の前に現れる妙齢の近未来人少女。しかも可愛いくて馬券予想までできてしまう。 まるで、『ドラえもん』のび太に対する『ドラえもん』みたいな印象があります。さらに物語がつづく場合、この女の子と喧嘩したり、クライシスを助けたり、変化があると、一読者の私としては、「萌え♪」となるところ。

▲ 転載先、こちらでの確認をお願いします。
   ⇒http://ncode.syosetu.com/n4393by/

【校正手順】
 前回同様に、ブログ仕様を小説仕様に改めさせていただきました。その際、一文中に、この、だが、がの連続があった場合は短文に変更しました。「・・・」 は、「……」に、また、「!」「?」直後は1字スペースあけ、アラビア数字全角半角・漢数字の乱れはアラビア数字半角に統一しました。なおアラビア数字の位を表す記号「,」は、あったりなかったりしたので、すべて外しました。小数点は、「,」を「.」に改めました。
 あと、馬券の表なのですが、ワープロソフトおよび「小説家になろう」画面での編集は困難なため、一行空け連続とさせて頂きました。
 以上の件でなお、ご要望がありましたら、(※技術的に可能な範囲で)承ります。

【校正使用ソフト】
 ●一太郎2010
 ●Word2010
 ●共同通信社 記者ハンドブック辞書 第10版 for ATOK(NW2)
 ●JUST Right4!
 
    執筆お疲れ様でした。ご協力に感謝いたします。
アバター
2014/01/31 22:46
とりま、お金だもんね。ww 



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