Nicotto Town



もしも明日が (後編)


♪ 今日の日を思い出に そっと残しましょう ♪

♪ そして心の垣根に 花を咲かせましょう ♪

「この歌、どっかで聞いた事がある・・・何て曲だったっけ?」

どこからか聞こえて来る歌声を聴いて福沢加奈が僕に尋ねた。

「もしも明日が」

僕は答えた。今年の初めにヒットした、わらべの歌だ。

「ふーん。この時代の歌だったんだ」

彼女は言った。

「ねえ、ワタシ達が二人が出会えた記念に二人でプリクラ撮ろうか?」

ゲームセンターの近くを歩いている時に福沢加奈が言う。

「ぷりくらって何?」

僕は彼女に質問する。

福沢加奈は僕の顔を見て急にクスクスと一人で笑い出し、それから、
「いや、何でもない」と言った。

僕らは結局、サンシャイン通り沿いにある、(デニーズ)に入り、僕は和風ハンバーグの
福沢加奈は洋風ハンバーグのセットを注文した。

僕らの案内された窓際の席からは色とりどりのネオンと照明に照らし出された通りを
行き交っている人々の姿が見下ろせた。

一ヶ月後のクリスマスに向かって、これから少しずつ街の彩りは華やかになって
いくだろう。

「本当に今日はありがとうね」

注文し終わって少し落ち着いた頃に福沢加奈が言った。

「もし、昨日の晩に春介クンと、あのコインランドリーで出会ってなかったら
 
ワタシは今頃どこでどうしていたのかわかんないよ」

僕は何と言えばいいかわからなかったので、曖昧な笑みを浮かべ、それから
視線を窓の外の方に向けた。

「・・・お礼なら僕の家の洗濯機に言えばいいよ」

しばらくしてから、僕は言った。

「洗濯機に?」

福沢加奈は小さく笑って首を傾げた。

「僕の家の洗濯機が壊れてなかったら、僕は昨日の晩、あんな時間にコインランドリーに
行く事なんて無かった。 ・・・あの洗濯機はいつもいい(せんたく)をする。故障する
タイミングだってバッチリだ」

福沢加奈はしばらく黙って僕の顔を眺めていたがやがて小さくクスクスと笑い出した。

「せんたく機だから?」

「せんたく機だから」

僕は少し恥ずかしくなって、そう言った後、視線を窓の外の方に向けた。

「春介クンって、ワタシと同じ年なのにどっかのサラリーマンみたいな喋り方するね」

福沢加奈が言った。

「そうかな?」

僕が言った。

・・・

「この後、あの(公園)に行きたい」

食事が終わって飲み物を飲み終わった時、伏目がちに福沢加奈が言った。

聞き返すまでも無く、あの(公園)と言うのは彼女が昨日の晩、今から29年後の
同じ場所から、目を瞑っていたほんの短い間にこの時代の風景を目にした
最初の場所の事だ。

「そうだね・・・とりあえずそこに行ってみようか」

僕らは立ち上がって店を出て、再びザワついた通りに出た。

空はもうすっかり暗くなっている。

僕らはサンシャイン60ビルの方へ向かって歩き出した。

どこからか坂本龍一の(メリークリスマス・ミスター・ローレンス)が聞こえて来る。

「これって、何かの映画の音楽だよね?」

福沢加奈が僕に聞いた。

「(戦場のメリー・クリスマス)。・・・あの映画観た事ある?」

僕がそう言うと福沢加奈は小さく首を振った。

「そう言えば、あの映画のラスト・シーンに出て来る様な場所がかつて
あそこにあったんだな・・・」

僕は目の前の夜空に向かって聳え立っているサンシャイン60ビルの方を
指差して言った。

「ラスト・シーンに出て来る様な場所?」

「あの映画に出て来たのは外国の刑務所だけど・・・あのビルは巣鴨プリズンの
跡地に建ってるんだよ」

「池袋にあるのに何で巣鴨なの?」

「昔は東池袋じゃなくて西巣鴨だったらしい」

そんな事を言いながら歩いている内にサンシャイン・シティー手前の交差点の
所まで来た。

ふと、隣を見ると福沢加奈の表情が少しこわばっている様に見えた。

交差点の少し先の方、サンシャイン・シティー前の通りの右側に(SEIYU)の
看板が見える。

問題の場所が近付いて来て、僕も自分が少し緊張して来るのを感じる。

信号が変わって僕らは交差点を渡りサンシャイン・シティーの向かい側の
歩道を西友に向かって歩いて行く。

僕には(たぶん、福沢加奈にも)ひょっとしたらと言うかすかな期待感があった。

彼女が29年後の世界で(彼女にとっての昨日の晩)、出会ったと言う(空野瑠奈)
とかいう名の若い女占い師とその場所で出会う事が出来るのではないか。

もちろん、その可能性は到底高いとはいえないだろう。

むしろ無いと考える事の方が自然だ。

何しろその占い師を名乗る女性は、福沢加奈と一緒に2013年からこの1984年に
やって来た訳では無い。

福沢加奈一人を2013年の11月下旬の土曜日の夜から、この(僕にとっての)現在に
送り込んで来た。

もっとも、それがその謎の女性の仕業だとはっきり証明し結論付けるのは
到底、不可能な話だ。

仮にその(空野瑠奈)とか言う女性がこの信じ難い出来事を意図的に引き起こした
と仮定して、一体、何故そんな事が可能なのか?

アインシュタインにだって皆目わからないだろう・・・

その目的と言うものが仮にあるとしてそれは一体何なのか?

自分自身では答えが出る筈の無い疑問に囚われながら、それでも半ば祈る様な
気持ちで、僕は福沢加奈と西友の手前の道を右に入って行ってファミリーマートを
通り過ぎた。

そして誰もいない真っ暗な小さな公園の入り口にたどり着いた。

僕と福沢加奈は公園の中に入り、真ん中辺りに立って、しばらくの間無言のまま
南東の護国寺辺りの上空に広がる夜空をぼんやりと眺めていた。

(正直、わかっていた事だけど祈りは却下された)

僕は呆然とそんな事を考えていた。

すぐ隣で無表情で空を眺めている福沢加奈がどんな思いでいるのかは
僕にはわからない。

振り返ると、間近にはるかに見上げる高さのサンシャイン60ビルが見えた。

「昨日の晩にここに来た時には、ここにははじめレンガ畳が敷き詰められていたの」

公園の土の地面を見ながら福沢加奈が言った。

「そして目の前にアウルタワービルが見えていて、こっちにはエアライズタワービルが
見えた」

もちろん今、彼女の視線の先には真っ暗な夜空が広がっているだけだ。

僕は彼女の今見ている方向を眺め、そこに二棟の高層ビルが建っている光景を
想像してみたがうまくイメージが思い浮かばなかった。

僕と福沢加奈は何もする事も、話す事もないまましばらくの間、その公園の
中にいた。

「そろそろ、帰ろうか」

僕がようやく言うと、福沢加奈はうつろな目で小さく頷いた。

公園を出て、もと来た道を駅に向かって歩き始めた。

福沢加奈は来た時とは違って、僕の少し後ろをゆっくりと付いて来る。

ファミリーマートの辺りで振り返ってみると、うつむいて歩く彼女は今にも泣き出すんじゃ
無いかという表情をしていた。

「僕にはたったひとつだけわかっている事がある」

人気の無くなったあたりで、僕が後ろに向き直って言うと、彼女は顔を上げて
僕の方を見た。

「明日は君にとってとても素晴らしい一日になる」

僕はそう言って、怪訝な表情で僕を見ている彼女に自信たっぷりに笑って見せた。

ファイト・オア・フライト(挑戦か逃走か)反応・・・

こういう状況では、とにかく前に出るしかないと僕は思った。

アバター
2014/03/10 22:10
今回はあまり進展がありませんでしたね^^

頼りなさげな二人が、人知を越えた危機を越えることができるのか楽しみです。
アバター
2014/03/05 12:44
 47アクセスありました。40で優としてます。
 前回より落ちているのは、昨今、私が同一サイトの裏側でウケのいいタイプの作品を書いていないため、やや集客が落ちているためと思われます。あと、連載ものを雑誌風にまとめたうちの会報でやると、若干顧客が敬遠する傾向もあります。かいじんさんご自身のブログでまとめて発表なされば、もっと読者が集まるでしょう。たまったらいつかなんらかの形で発表なさるといいでしょう。
アバター
2014/03/04 17:51
福沢加奈さん、なんとなく、このままこっちの世界にいるほうが救いになる状況だと
一読者としては勝手に妄想しています。
けれどインパクトを求めると意地悪くならざるを得ないのですよねえ。


アバター
2014/03/04 03:12
未来人と過去人との恋。切ない別れが待っているのがふつうですが、実際のところSF設定というのは理屈づめで、そうなの? という疑問符ばかりなので、ファンタジー的に、反則もいいと考えてしまう僕です^^
アバター
2014/03/02 09:25
読みながら、ドキドキワクワクが加速していきましたw
競馬で儲ける=タイムスリップの証明だったりするのも面白いですw
出会いのコインランドリー?
なんか、広末涼子と阿部寛の映画を思い出しました!
続きが気になります!
アバター
2014/03/01 21:02
前に進む
過去人と未来人
禁断の? 恋に……となるのでしょうか
楽しみにしてます^^
アバター
2014/03/01 20:12
どうなっていくんだろうという不安や
こうなったらいいなあという期待で
わくわく読ませてもらいました^^
すごいなーかいじんさんこのあとはどうなるの?
アバター
2014/03/01 08:40
転載させていただき、校正方法は前回と同じ手順で行いました。ご協力ありがとうございます。のちほど改めて感想を書かせて頂きます。



月別アーカイブ

2022

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.