Nicotto Town



黄金旅程 (STAY GOLD)   (1/3)


「私とやりたいと思ったら、私はいつでもあなたとやってあげるわよ。
・・・心配しなくても私がちゃんとリードしてあげるから」

杏子センパイが言った。

僕ら二人が歩いている国道脇の歩道のすぐ下の畑では紺色のJA(全農)の帽子を
被っている、よく日焼けしたマスダの爺さんが作物をいじっていたが、思わず振り返って
僕らの方を見た。

連休中の5月初めにしては、かなり強い陽射しがほぼ真上から照りつける中、僕と
杏子センパイは、低い丘陵のの様な山々と九十九里海岸までの間に広がった
田園地帯を、まっすぐに横切っている国道を西に向かって歩いていた。

僕らの歩いている100メートル程先には、西洋の城を模った、塀を高くしてガレージが
外から見えない様に工夫された休憩宿泊施設があった。

そのすぐ手前まで来た時に、振り返ってみると、腰をかがめて畑をいじりつつも、
首にかけた手拭いで、顔の汗を拭いながら、僕らの方をチラ見している
マスダの爺さんの姿が見えた。

僕らはその建物を通り過ぎて歩いていった。僕と杏子センパイが歩いている国道から
少し離れて総武本線の単線線路が並行する様に続いている。

僕らはボタン式信号の交差点の所で国道を渡り、黒い瓦屋根の寝具店と簡素な
コンクリート造りのコンビニエンスストアの間に挟まれた道を駅の方へ向かって
歩いた。

やたらにただっ広く感じられる駅前の広場と簡素な駅舎の中やその向こうに伸びた
ホームは、連休中にもかかわらず、まったくひと気が無く、不思議な静寂の中で
真夏を思わせる程の強い陽射しに晒されていた。

脇に古びた公衆電話がぽつんとあるだけの入り口から、無人の駅舎に入り
自動改札を抜けてホームに出て、更に跨線橋を渡って反対側のホームに出て
僕と杏子センパイは待合のベンチに並んで座った。

目の前には標高200Mに満たない山々の若々しい緑が陽光を受けて輝き、その
麓に点在している屋根瓦もきらきらと照り輝いて見えた。

「ところで(例のあのコ)とは、その後どうなっているのよ」

何の脈絡も無く、杏子センパイが突然、僕に聞いてきた。

僕は、この高2の春に、前々から気になっていた、倉橋由美子と同じクラスになって
しかも席が隣同士になった事で、はじめて言葉を交わして、その後、少しずつ
親しく話をする様になった。

突然その距離が急速に縮まって、日増しにその内心の想いがますます強くなっている
事は、まだ誰も知る者が無い筈だったが、学年すら違う杏子センパイの眼はまるで
千里眼の様だった。

「どうなってるって、別に・・・」

僕は曖昧に言葉を濁した。

「カァーッ! あきまへんなあ、、何をやってるのんや。 高校時代言うもんは、人生で
1回きりしかやって来いへんのんやでぇ」

杏子センパイは、下手くそ過ぎる関西弁でそう言った後、首を振った。

(そう言ってる杏子センパイはどうなんですか?)

内心、そのセリフが浮かんだけどそれを言うと、大抵怒り出すので僕は黙っていた。

「まあ、それは今、どうでもいいわよ」

杏子センパイはそう言って、バッグからスポーツ新聞を取り出した。

一面にでかでかとした見出しでキズナと書かれているのと、馬の顔がアップで写って
いるのが見えた。

・・・

この連休中、特にする事も無く、大体どこかに出掛ければ人出が多い事が
目に見えていたので、ほとんどの時間を家の中でぶらぶらと過ごしていた。

昨日の晩、高校の演芸研究会の杏子センパイから僕の携帯では無く家の電話に
かかって来た。

彼女の家は僕の家から目と鼻の先にあって、2階にある僕の部屋の窓から、20M程
離れた所にある2階の彼女の家が見えるくらいだ。

高校で演芸研究会に入ったのも、彼女に少し強引に誘われたからで、最近は
コントをやってみないかとか言われている。

子供の頃の苦い思い出のいくつかの場面には1つ年上の彼女の姿があった。

「ワタシ、明日生まれて初めて競馬に行って見る事に決めたのよ」

電話の向こうで出し抜けに杏子センパイが言った。

「競馬・・・ですか?」

「そう。でもか弱い女の子が一人で、あんな所に行くのはいくらなんでも心細いでしょう?
それで、仁クンも、一緒に行ってくれないかなぁって思って・・・」

「でも、高校生が馬券なんか買っていいんですか?」

「なんで、高校生が馬券を買ってはイケナイの?」

「それは・・・高校生としての健全な育成上・・・」

「健全な高校生? ・・・あのねえ、仁クン、ワタシは思うんだけどねえ。世の中に
(不健全なオトナ)が多過ぎる原因の1つは、若い頃の(社会勉強)が不足している
せいだとワタシは思うんだよ。大体、一緒にシ。ブやろうって言ってる訳じゃなし・・・」

杏子センパイが凄まじい持論をまくしたてはじめた。

性格が少々吹っ飛んでいるけれど、学校のテストでは常に学年で10位以内に
入っている杏子センパイは、その気になれば、1時間でも、2時間でも、あらゆる
話題を持ち出してひたすら喋べくり倒す事が出来た。

その事を十分過ぎる位、知っている僕は少しでも早く切り上げる為に、早々に
彼女の要求を呑む事にした。

その夜、九時を過ぎてから、僕は取りあえずPCで、競馬について検索して
JRA(日本中央競馬会)のホームページと言うのを見つけて、いろいろ
いじった末に、杏子センパイが電話で言っていたレースの出馬表を
開く事が出来た。

京都11R 第149回 天皇賞(春) (G1) 芝3200m

その下に馬柱と呼ばれる表に18頭の出走馬が馬番順に表示されて、性齢/毛色やら
騎手名やら、血統、前4走の成績、単勝オッズやらがいろいろ書かれているが
はじめの内はごちゃごちゃし過ぎていて、何だかよくわからなかった。

しばらく、眺め続けている内に大体の意味はわかる様になったけれど、そのデータを
どう参考にして、このレースの勝ち馬の予想をすればいいのかはさっぱり
わからなかった。

そう言えば、ビギナーズ・ラックとか言って、初心者が適当な予想で買った馬券とかが
案外、よく当たるなんて事を聞いた事がある様な気がする。

(第149回なんだから、1番と4番と9番)

などと適当に考えてみて、出馬表でその3頭のデータを照合してみる。

1番 アスカクリチャン (18頭中15番人気)

4番 サイレントメロディー (18頭中18番人気)

9番 タニノエポレット    (18頭中13番人気)

3連単 1-4-9  15553,3倍

100円が155万5330円になる計算になる。

いくらなんでも、そんなまぐれ当たりは期待出来そうには無かった。

「奇跡を待つより、捨て身の努力よ!」

不意にそんなアニメの台詞を思い出して、その後、倉橋由美子の事を考えた。

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2014/05/26 19:07
冒頭の杏先輩、引っ張りにでてきた倉橋由美子
 主人公はどうなるのでしょうね
 次回を楽しみにしてます

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2014/05/26 14:46
・・・冒頭を読みかけた瞬間、
官能小説方面へ走っていくかいじんさんの後ろ姿が見えたような気がしましたが、
走っているのはお馬さんでしたね・・・^^;
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2014/05/26 07:12
センパイが競馬に行こうと思い立ったのは実生活で何かあったため?失恋とか? 
いろいろ想像しちゃいました。
「センパイと僕」は将来コンビ組んだりするのでしょうか。
ワクワクで後編を待ちまする・ω・>
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2014/05/26 00:06
はじめから過激ないいまわし
けれど競馬のお話…
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2014/05/26 00:00
おーい、3カ所間違いめっけた!でw 年上のガールフレンド?SUNOUちゃんより♡



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