蛍の道 (後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2014/07/31 00:06:05
攻撃開始から空爆、ミサイル攻撃、榴弾砲等の攻撃が続けられ、国境付近の
半島の北の国の部隊は壊滅、或いは後退し陸上部隊は進撃を開始した。
それから3週間程の間に僕が目撃、体験した事は生涯、僕の記憶から消える事は
無いだろう。
僕自身、中隊が残存兵による潜伏待ち伏せ攻撃を受けた時、未舗装の道路脇に伏せて
100メートル足らずの先にある畑の影から撃って来る兵士達に向かって照準し
スリーショットバースト(3連射)で撃ちまくり、少なくとも一人を斃した。
弾倉が空になり、弾倉入れから次の弾倉を取り出している時、すぐ隣にいた
シバタ上等兵が胸を撃たれた。
僕は大声を張り上げて上等兵が撃たれた事を告げた。
伏せたまますぐ横に近寄って行くと、僕のヘルメットに手をかけ何か言おうとしていたが
呼吸が苦しそうで言葉が出せなくて口が動いているだけだった。
戦闘服はみるみる真っ赤に染まって行く。
やがて他の二人に両脇を抱えられ、低い姿勢で引きずられる様にして車両の陰に移動
させられて行った。
戦闘が終わった時には、シバタ上等兵は既に息絶えていた。
「戦争がおっ始めるんなら、任期延長なんてするんじゃ無かったよ」
半島派遣が決まった時、シバタ上等兵は言っていた。
今年の春に2年間任期を継続延長したシバタ上等兵は、祖国から離れた場所で
戦死し、他の中隊での戦死者3名、負傷者11名と共に後方へ送られていった。
振り返ると、僕らが向かっていた道の前方200メートル程の道脇の畑の中で
襲撃の始めに撃墜された偵察、攻撃用無人ヘリAAH-01(疾風はやて)が
炎上して黒煙が空に立ち昇っているのが見えた。
操縦者は国境を越えずに半島の南側の国内にいる。
彼が今、どうしているのかはわからない。
その後、小休止になった時、ヘルメットを脱いだ時にヘルメットの迷彩覆いの
ちょうど、僕がマジックで(HELL TO HEAVEN)と書いた辺りにシバタ上等兵の
血まみれの指の後が残っているのに気付いた。
・・・
周囲はすっかり暗くなり、蛙と虫の声に包まれていた。
僕は再び今遠く離れた僕の田舎でやっている夏祭りと蛍が飛び交っている道の事を
想像してみる。
あれから、一年後、僕は陸軍兵士とは言え自分が戦場にいるなんて事はあの時は全く
想像していなかった。
僕が由佳と直接会ったのは2ヶ月前、5月の連休の終わりに田舎の駅で
発車するワンマンディーゼルカーから手を振って別れたのが最後だ。
あの時、今年の夏の休暇は町に花火大会を見に行く話をしていた。
しかし仮にこの戦争がもうすぐ終わるとしても、すぐには祖国には帰れそうに無い。
それより何より、とにかく生きて田舎に帰りたかった。
「早く交代の時間にならないかなあ」
隣にいる、ヨシダが暗闇の中で声を潜めて言った。
もうすぐ、見張りの交代になればとにかく短い間眠りにつく事が出来る。
眠っている束の間の時間だけ、この悪夢の様な時間から解放される事が出来る。
僕は二人用塹壕の中でぼんやりと視線を真っ暗な前方に向けながら、毎年
僕の田舎から少し離れた町で毎年8月に開かれる花火大会の事を考え
そこで打ち上げられる花火の事を思い出していた。
ふと花火が打ち上げられる音が聞こえた様な気がした。
少しして僕らの真上辺りから突然、眩しい光が降り注いだ。
見上げると2発の照明弾が僕らの上空に打ち上げられていた。
かいじん様89/40アクセス
大健闘ですね!
良き場所で聞いた音、感覚をより強く思い出させるのは、そこから遠くに離れているからこそなのでしょう。
作られた話の中でとされる事は、過去において、今現在においても世界のどこかで同じような気持ちと感覚を誰かが持っています。
だからこそ、「じゃあどうする?」をみんなが考えるようになればいいなあと思っています。
その状況では絶対にありえない「ふと花火が打ち上げられる…気がした。」の文がいいですね。
結末は書かれていないけれど、悲哀を感じさせるものになっていますね。
ありがとうございました。
照明弾打ち上げられたってことはー・・;
終戦の日です。
顔も知らない祖父が亡くなった戦争は、昨今は忘れかけられているのかなぁと
思うことがたびたびあります。
徴兵制度だけは復活しませんようにと、子を持つ母親として切に願っています。
金しか出さないと非難されても、こういう事態になるのはまっぴらごめんですね。
蛍みたにせつない
読ませてあげたいです
照明弾のあとにくるものは…
8月になると戦争のドラマやら 戦争の記憶が思い出されますが、
戦争のお話とホタルって何か鹿児島知覧基地の特高ホタル思いだされます。
あちらの 南と北は今も戦闘中な訳ですよね
いや 怖いわ・・
こうなっても不思議じゃないもの
集団的自衛権というのはあるけれど、日本も米軍も、韓半島には関心が薄くなってきていて、緩衝地帯の役割よありも、むこう岸から直接の脅威がおよんでいるシーレーンのある南シナ海なのだろうなあと、個人的に感じる昨今です。