Nicotto Town



夢の後の島 (前編)

昨日の夜はあんましよう寝れんかったので、朝起きるんが面倒で九時過ぎになって
やっと起きた。

母はとっくに仕事に出とった。

ウチはまだ小学生最後の夏休みが半分くらい残っとる。

窓の外は真夏の太陽がガンガンに照り付けとって、セミがでっかい声で鳴きようる。

洗面所に行って歯を磨いて顔を洗うてから、パジャマから白地のプリントTシャツと
淡いブルーのスカートに着替えた。

それから、キッチンに行って、レタスとトマトとハムでサラダ作ってから、トースト焼いて
オレンジジュース飲みながら食うてから、テレビを何と無く見ながらしばらくぼんやりした。

昨日、東京に住んどる自分の2歳違いの弟に初めて電話して声を聞いて初めて
会話をした。

その時の電話越しの声を思い出しながら自分の弟の今の顔を想像してみたけど
さっぱりわかりゃあせん。

ウチが4歳の時に親が離婚して弟は父の方に引き取られたので、ウチが那須希美子で
弟は長谷倉智樹と苗字からして違っている。

昨日の午後にタンスの奥にあった東京の03から始まる電話番号のかかれた
紙切れを偶然見つけるまでは、東京に住んでいる事すら知らなかった。

昨日、電話した後、手紙を書いてウチの写真を添えてポストに投函した。

もし返事が届いたらたぶん写真も送って貰えるんじゃろうという気がする。

そういったいろんな事を考えている内にふと島の事を思い出した。

そして島の事を考えている内に久し振りに島を見に行きたいと思うた。

今日、島を見に行こうかとか考えようたら夏休みの宿題の写生がまだ
終わってない事を思い出した。

昼はしめじが無かったのでベーコンだけ入れた和風パスタと大根ときゅうりとツナの
サラダに作って切ったトマトも一緒に乗せて食べた。

その後、バスの時間が近くなった頃に、キャンバス地のトートバッグの中に、
スケッチブックと絵の具セットと水筒を入れて、麦わら帽子を被って家を出た。

外に出ると太陽はほぼ真上から照りつけていて今日もすごい暑さでセミの鳴き声
だけが騒がしく響き渡っていた。

バス停のすぐ近くにある酒屋の屋根の下の日陰で待っとったらすぐにバスが来た。

・・・

バスを1度乗り換えて、1時間ちょっとかけて大師堂のすぐ近くのバス停まで着いた。

このバス停のすぐ先で海岸に沿った山腹を走っている県道は南から西へ向きを変えて
漁港や四国に渡るフェリー乗り場の方へ向かっている。

その曲がり角の所は南に向かって突き出た所にある大師堂への入り口になっている。

その入り口を入って両脇に松の生い茂った道をまっすぐ歩いて行くとすぐ突き当たりの
本堂にたどり着く。

その裏側はすぐ松の茂った斜面になっていて、そこから一面に真夏の陽射しを浴びて
すっきりとした青さで広がっている瀬戸内海と少し遠くにうっすらと霞んで見える四国との
間に浮かんでいる大小様々の島々が見えた。

ここからは右手の方の四国の方に向かってまっすぐ連なっている様に見える島と島の
間の海面には瀬戸大橋架橋工事の為の巨大なクレーン船が浮かんでいるが見える。

真正面の沖合い1キロ先にはっきりと見えている周囲3キロの平坦な地形の小さな島。

あの島は地図で見ると三角形に近い形をしとるけどこの場所からみると、2辺が
こちらに向いとるからかただ横に細長い形をしとる様にみえる。

起伏の少ない島の一面は深い緑に覆われていて、島を囲んだ海岸には岩場が殆ど
無くて島の全体が幅の少ない砂浜で囲まれている。

今は人の住んでいない無人島だけど、10年位前までは住人がいたと聞いている。

それまではずっとはるか昔からあの島に住んでいる家もあったし、戦争が終わった頃
あの島に移った人々がいて、一番多い時にはあの小っこい島に70人位の
人が暮らしていて島の中には小中の分校もあったらしい。

じゃけどその後、高度経済成長だか何だかで、世の中が豊かになって来ると
人々は再び島を離れて行って、その頃、ずっと昔から島に住んでいた家の
人達も島を離れて行ったので、やがて島には誰も住む人がいなくなった。

今では生い茂る草木に覆われ尽くした島にはここから見る限りではそこに
かつて人が住んでいたという様な形跡はまったく無い。

ウチの母はあの島で生まれて子供時代をあの島で過ごした。

母の生まれた家は、ずっとはるか昔から先祖代々あの島で暮らして来たと
いう家のひとつだった。

母が中学生の時、母の両親と母の兄(つまり、ウチのおじいちゃん、おばあちゃんと
おじさん)そして母の4人家族は島を離れて、今ウチが母と暮らしている町の西隣に
ある大きな工業地帯の町に移って行った。

確かにあの島で暮らして行くのは不便な事が多かったじゃろうという気がする。

母に聞いた話では、あの島にはアスファルトやコンクリートの道なんて無いし
車が走れる様な大きさも無い。(車を走らせる程の広さも無いと思うけど)

そもそも砂浜に囲まれたあの島には港が無い。

「夜、北の浜に出たら、目の前に町の灯が広がっとるんが見えよんじゃけど
こがあ近こうても、ウチらがおるとことは、違う世界みたいに見えようた」

母は子供の頃の事をそげな風に言うとった。

ウチは絵を描くんはあんまし好きじゃ無えんじゃけど、とりあえずスケッチブック
出して鉛筆で島のスケッチを始めた。

出て来る時は、島を描きたいとか思うたんじゃけど来てみたら何かだりいけえ
パッパッと済ましとうなったんで単純な形をした島と海と島のずっと後ろの方に
うっすらと見えとる四国の五色台辺りの山と一応、空のもくもくした雲もササッと
描いて、それで絵の具で色を塗る事にした。

水筒の水を水入れに入れてそれに筆を差した。

ウチは絵描くんが苦手でいつも色を塗ったらぐちゃぐちゃになっていくんで
今日はちょっとの絵の具を多目の水で溶いて出来るだけ薄い色で塗っていく
事にした。

大体その方が真夏の太陽に照らされとるという感じが出る様な気がする。

私は緑の絵の具をちょびっとだけパレットの上に出してそれをたっぷり水を
含ませた筆で溶いて色を塗り始めた。

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2015/12/01 00:37
小学生の女の子が方言で話しかけてくれてるようで和みます(*´∀`*)ノ
自分でお昼ご飯も作れてしっかり者さんだなぁ♪
島に住んだ事はないけど
海を挟んで街の光が見えるのは それはそれで綺麗だと思う



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