Nicotto Town



夢の後の島 (後編)

一応、丁寧に色を塗って行きょったら何か疲れて来たんでウチは筆を止めて
目の前の島の方をぼんやり眺めた。

ずっと昔、平安時代だか何だか関東で平将門とかいう人が乱を起こしたのと
同じ頃、藤原純友いう人もこの瀬戸内海で乱を起こした。

ほんであの島に篭って今目の前に見える北の浜辺りで200艘以上の船に乗って
都から討ちに来た軍勢と浜と海が真っ赤になる位の戦をして結局勝ったらしい。

そういえば母があの浜には幽霊がよう出るとか言うとった。

それであの島のどこかにはその藤原純友が埋めた財宝があるらしいとか言う
話を前に学校の先生がしとった。

それより少し後、今から1000年位前(来年でちょうど1000年言うとった)

この場所からは、ずっと左手の方にうっすらと見える高松の東の屋島で平家と
源氏が合戦した。

船に乗った平家と浜で馬に乗ってた源氏が弓の射ち合いをやってたらしい
日暮れが近付いたのでその日は両方一旦引き上げたらしい。

じゃけどしばらくしてから平家の方から一層の船が源氏のいる浜の方に近付いて来て
70メートルだか80メートル位の所で船を横に向けて止まった。

やがて船から若い女官が出て来て舳先に竿を差してその先に紅の扇を挟んで
「これを射ってみよ」と言う仕草をした。

これを1矢で射落とさねば源氏の名折れと見た源氏の大将源義経は下野(今の栃木県)
の住人、那須与一にこれを射るよう命じた。

与一は弓を引き絞り「南無八幡大菩薩」と唱えた後、矢を放った。

矢は7,8段先の扇の柄を射抜いた後、海に落ち、その後、扇は春の風にひらひらと
揺られながらゆっくりと海に落ちて行った。

(みな紅の扇の 夕日の輝くに白波の上に漂い浮きぬ沈みぬ揺られけるを
沖には平家船端たたいて感じたり、陸(くが)には源氏箙(えびら)たたいてどよめきたり)

源氏は面目を施して、平家はこの後、決定的に衰運を辿っていった。

那須与一はこの後、諸国にいくつかの所領を与えられた。

その中には今目の前に見えている島も含まれていて、後に子孫の一人があの島に
住む様になった。

それが母の家の先祖と言う事になっとる・・・

・・・

島を眺めながらぼんやりしている内に、陽が西に傾いてきたので、絵の仕上げは
家に帰ってからする事にした。

スケッチブックと絵の具セットを片付けてからもう一度島を眺めてみる。

島は何だか、かつてそこに暮らした人達の夢の後の様に感じた。

ウチは立ち上がって西日に照らされた瀬戸内海を見渡した。

夏の盛りが過ぎて、終わりが近付き始めたのを感じた。

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2015/12/07 08:04
おはようございます。
絵についてのお言葉をいただきありがとうございます。
大変恐縮です><
物語を読ませていただいた時にパッと脳内に浮かんだイメージがあれで、
あのような絵になったのはひとえに、
かいじんさんが綴られた詳細ですばらしい情景描写のおかげです。
こちらこそ素敵なお話を、本当にありがとうございます。
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2015/12/02 02:56
ハッピーエンドですよねぇ……(*^^*)
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2015/12/01 20:52
お姉さん側のお話、
海に浮かぶ島が鮮やかに目にうかんでくるようです。
華やかな絵巻物のような源平合戦から引いた
ご先祖の由来話、面白いです。
島に伝わる風習とかいろいろありそう。
姉と弟、いつか会えるのかな。
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2015/12/01 18:59
さすがに歴史にお詳しいですね
弟さんとの語らいは次回でしょうか
どういう結末になるのか想像がつきませんけれど
ハッピーエンド希望です^^
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2015/12/01 05:02
絵になる風景のある島
姉の描く風景は失われた過去の復元作業ようでもあります
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2015/12/01 00:43
実は由緒正しいとこの子なんですね
しっかりしてる訳です

かつて戦があったとこって
どことなく幽玄な感じがするのでしょうかね



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