Nicotto Town



晴れの国(後編)

頂上には僕と武井だけが残った。

武井は何か言いたそうな表情をしながらも黙って柵の付近に落ちているゴミを
拾ってゴミ袋に入れていた。

僕はしばらくの間、よく晴れた空の下に広がっている瀬戸内海とそこに
浮かんでいる島々を眺めている。

この町に住んでいる4人の生徒たちはおそらく、何度かはここに来た事が
あるのだろうが、僕がこの場所に来たのは1ヶ月前に初めて来て以来
2回目だ。

目の前に見える一際大きな大鳥島は県の離島の中では一番大きな島だが
平地が殆ど無い為にそこに暮らしている住民は12人しかいない。

その隣に浮かんでいる周囲4キロほどの小さな島が畑野の暮らしている家が
ある多美島だ。

多美島と大鳥島の間の穏やかな海面には無数の牡蠣筏が並んで浮かんでいた。

多美島の右手の方には喜多島や丸石島、白岩島などが見える。

ずっと沖合いの方にうっすらと広がっているのは四国では無く、島の分教場を
舞台にした小説で有名な大きな島だ。

「なあ、武井。ワシがなして、お前らをここに連れて来たと思う」

武井に向かって僕は言った。

「・・・畑野の事じゃと思います」

しばらくの間、迷った後武井が答えた。

「ほうじゃ。・・・ほんでなしてなら?」

僕は言葉を省略して尋ねた。

「何かあいつ見ようったら、イライラしたんで・・・」

「イライラする言うて、どげな所が?」

「何か、見ようったら女みたいで・・・」

「ほうか。・・・ほんじゃあ聞くけどお前らがしよる事は男らしい事なんかのう?」

たぶん、この(男らしい)と言う言葉がこの武井には響いたのだと思う。

「これからは・・・もう絶対にやらん様にします」

きっぱりとした口調で武井が言った。

「ほいじゃったら後で畑野に謝っとけ」

僕がそう言うと武井は、はいと頷いた。

「ほうか。 ほいじゃったらもうええわい」

その表情を見て僕はそれ以上念を押さない事にした。

陽射しは強かったが風が吹いて来たので心地よかった。

振り向けばよく晴れた空の下、光り輝く風景が広がっていた。

・・・

あれからずいぶん長い年月が流れた。

汐見町は海前市と合併し、海前市の一部になった。

武井健次はその後兄と同じ工業高校に進学したが
卒業後はその方面の仕事にはつかず航空自衛隊に
曹候補生として入隊した。

現在では空曹長にまで昇進し北関東にある地上防空を
行う基地の部隊で先任空曹と言う下士官や空士たちを
指導、教育する立場にいるのだそうだ。

畑野修二は中学卒業後は僕の母校である海前高校に
進学した。卒業後は千葉県の会社に就職したが
数年後に漫画家としてデビューした。

連載した少年向けの架空世界での冒険漫画がTV放映、映画化
されるほどの大ヒットになり、彼は旧汐見町出身者としては
最も、著名な人物になった。

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2016/06/03 18:43
体育会系の武井くん、文系・芸術家肌の畑野くん、
たしかに相容れないものはあるかも。
しかしさすが体育会系、武井くんてばなんて素直でいい子なんじゃろノωノ
もっと都会のすれた子でも、
この先生なら的確な指摘と指導をしてくれそう。
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2016/06/03 00:07
いいお話でした
イジメを止めさせることに成功したばかりでなく
子供達の性質に寄り添って誰も傷つけず
素晴らしい先生ですよね

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2016/06/02 12:46
この先生、好みだにゃあ^^
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2016/06/02 08:57
こんな先生がいてくれたらいいなあ~と思いました^^
武井クンのプライドも畑野クンの臆病さも
一手に引き受けている解決策にスカッとした気持ちになれましたヽ(^o^)丿
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2016/06/02 06:51
畑野少年の紹介のときに絵が上手いというのがあり、ラストでそれが伏線でいきてきて上手いと思いました。この手の物語のときはハッピーエンドがいいですよね。イジメにかけているのだけれどちょっとひねった純文系中編に『ヘブン』というのがあり面白いです。
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2016/06/01 21:55
苛立ち、どうにも処理できない感情
そういったモノに向かい合うこと

子供たちの未来が瀬戸内の海のように輝いている

昔 高松から瀬戸内の島へ行った時に見た風景が浮かびました^^
忘れられない景色です

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2016/06/01 19:25
武井君も気質は素直で男気があった。畑野君もいい先生にめぐりあえてよかったですね。



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