最近、仕事量が多くなる時期になり、
普段より帰りが遅くなる。

みっちりずっと図面や原稿に集中するのも
難しい話なので、合間合間にその辺をぶらつき
休憩している。
しかし、終業後ともなると工場のパートの
おばちゃん達も帰っており、詰まる所、
話し相手が居ないのである。

しかし、暑い中、社内を目的もなく歩き回るのも
気が乗らないので、社内に古くから伝わりし
怪奇現象・心霊スポットを、ここ最近は
巡ってみることにしている。

今回語るのは、自販機の裏の壁との隙間。
社内に3箇所ある自販機の、恐らくは最も
利用者が多いであろう自販機。
創業時からある第1工場と、増築された第2工場
を繋ぐ薄暗い通路の脇に設置されているのだが、
この自販機の背面に何かが居ると、自称霊感の
あるパートのおばちゃんは云う。

姿形については、他の目撃者達の話を
聞いても、イマイチはっきりとはしない。
居たり居なかったりする上に気配もマチマチで、
何も感じず居ないと思ってたらひっそりと
佇んでたりするらしい。

普段より私も利用する試験室は、第1工場の
中にあるため頻繁にそこを通って居るのだが、
実は私も不可解な現象に見舞われたことがある。

それは、タイムカードを押した直後、朝イチに
ジュースを買った時のことである。
眠気覚ましにと炭酸の入ったファ◯タを
買ったのだが、何故か出てきたのは無糖の
ブラックコーヒー。
しかも、ボタンの位置がまるで異なるホット。
いくら朝っぱらで寝ぼけて居ても、こんな
間違いをする筈がない。
これは、自販機の裏に潜むと云うナニカが
眠気に立ち向かわんとする私に気を利かせた
(嫌がらせ?)結果なのだろうか…

コーヒー嫌いの私は半ば怒りを覚えながらも
自販機の管理会社に連絡をしてみた。
すると「昨日、補充ついでに点検したところ
なんですけど、おかしいですねぇ」との回答。
熱気が日に日に増す初夏にホットコーヒーなぞ
飲む趣味はないので、管理会社の言い分を
信じてもう一度ファ◯タを買ってみた。

すると、ガタンといつもの騒々しい音と共に、
排出口から見えたのは、見慣れた麗しき紫色の
ジュース缶。グレープ味だ。
やはり寝ぼけて居ただけだったのだろうか…
先程の怒りが情けなさに変換されようとして
いたその時、管理会社の方が来社された。
念の為にと再点検に来てくれたのだ。

作業員が汗を滲ませながらも中を開けると、
やはりと言うべきか…
缶の配置になにひとつ間違いはなかった。
そりゃそうだ、さっき正常に出て来たもの。
腑に落ちぬものを感じつつも、最後の確認と、
作業員がファ◯タのボタンを押したのをみる。
すると、排出口には…

ファッキンホットなブラックコーヒー

そう！点検時のミスでファ◯タとコーヒーが
交互に排出されるようにプログラムが
変更されてしまっていたのだ！

なお、その後は特に怪現象も起きてないし、
キャンペーンの当たりも出ていない。
毎日隙間を覗いているが、怪しいものが
見える気配すらない。