Nicotto Town


世の中の沙汰やいろんなこと。


【神聖創造物サークル】仁・過去エピ

「仲間を作らなければ…良かったんだ。」

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「今日から仁と俺達は仲間だな!」
小学生に新しく転校してから数週間後、クラスメイトの男子が仲間の証である青く塗られた小石とともにその言葉をくれた。

その日は美しい蒼空が頭上に広がり、新しく仲間になった彼は満面の笑みを浮かべ、
「そうだね!仲間だ!」
と明るく答え、クラスメイトの男子達も一緒に笑うのだった。

彼はそんな仲間達といろんな所へ遊びに行き、仲間と言う絆を深めて行った。
一緒に居るだけで楽しく、彼の顔から笑顔が絶えることは無かった。

そして仲間が出来てから数ヶ月後、林間合宿のバスで座る位置をクラス全員で決めていた。
当然、彼は仲間と近くの席を選び、その席を決めた日から楽しみにしていた。
前日には寝ることが出来ない程楽しみにしていた。

そして林間合宿当日ー

バスいっぱいに広がる笑い声と話し声。
皆何をして遊ぶとか何を持って来たとか話し合っている。
もちろん彼も仲間と一緒に楽しく話をしている。

そんな車内のテンションは収まること無くバスが山中を走っている時、後ろから「ドン!」と言う大きな音が聞こえた。
そしてもう一度「ドン!」と言う音が聞こえたと思えば急にバスの後方がへこんでいた。
バスの後ろ数列に座っていた生徒は座席と車体の壁に挟まれ、痛みを訴えながら出ようともがいている。

生徒は全員絶句した後、皆各々の方法でパニックし始めた。
彼はギリギリ潰されない列に座っていたが、後ろの列に座っていた仲間は挟まれていた。
仲間達は「痛い…助けて。」と言いながら目で彼に訴えて来ていた。
しかし彼は頭の中で思考が止まっていて、そこで立ち尽くすしか無かった。

そして、これだけではなかった。
「皆、座ってシートベルトをつけて!」
そんな先生の呼びかけを聞いたと同時にバスが何かに持ち上げられたように大きく傾く。
ヤバイと思い、彼は席に座り、素早くシートベルトをつける。
バスはそのまま傾きを戻すこと無く、山を転げ落ちて行った。

そんな中、彼は見た。
道路上に立って笑っている二人組を。
しかしじっくりと見る暇もなく、バスはどんどん加速して行く。
ずいぶん長い時間のように思える期間転げ落ちたあと、木にでも引っかかったのか、急にバス横向きには止まった。

彼は閉じていた目を開くとすぐ目を開けなければ良かったと思ってしまった。
なぜなら楽しい声が響いていたはずのバスは一変し、静かに静まり返っていた。
窓は割れ、シートベルトをつけ損ねた人が転がっている。
そこには先ほどまで隣に居た彼の仲間も居た。

彼は仲間の元へと駆け寄ろうとするが、全身の痛みが彼を襲う。
あらゆる所が傷む中、自分の左手の感覚が妙にない事に気がつき見てみる。
そこには前の座席に挟まれた手があった。
いくら動かそうと、きっちり挟まれているその手は動く気配を見せない。
周りからは他に無事だった数人の生徒の泣きじゃくる声や叫び声が聞こえ始めていた。

その後、誰かが通報してくれたのか、救急隊が駆けつけたらしいが、その時にはもう彼は気絶していた。

病院に搬送された彼はその虚ろな目からもう涙が出なくなるまで泣いた数日後、ふと一人、聞き取れない程静かにこう呟いた。

「仲間なんて作らなければ…こんなに苦しい気持ちにならなかったんだ。」

「そうだ、これから俺は何にも……誰にも興味を持たない。そうすれば誰も俺を仲間と見ないし………俺も誰も仲間として見ない。これで良いんだ…………これで全部良いんだ………。」

そんな彼が退院する頃には完全に心を閉ざし切り、かつての絶えない満面の笑顔は見る影も無くなっていた。
そして、その両の手には前まで無かった青い宝石が一つずつ埋め込まれていた。

**********
「これからも俺は絶対に『仲間』なんて作らないさ。」

他の過去編とは一味違う感じで書いてみました。

ちなみにこの話を書いてる間、「あ、事故連想させられたら仁、暴走させんのよくね?」と思ってしまいました。
そのうち変更しよう。そうしよう。うん。

後、感想などありましたらコメントにどうぞ!




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