Nepenthes
- カテゴリ:自作小説
- 2014/01/19 15:37:49
昨晩お袋が亡くなったという連絡を受けたのは今朝の事だ。
もう何年か前から入居していたホームで夕方容態が急変し、
意識が戻らないままそのまま眠るように逝ったと、
施設の職員からの説明を受けたが哀しいほど実感は湧かなかった。
殆ど育児放棄のような家庭で育った自分は奨学金で大学に行き
就職と共に故郷を捨て、一度たりとも帰郷などしたことなかったのだから
今更貴方の母親が亡くなりましたなどと言われても、すぐに実感など湧くはずもない。
記憶の中の母親は、男にだらしなくいつも飲んだくれていた。
過去の記憶を辿ると、化粧と香水と酒の臭いと共に思い出される家の風景には
何故かいつもウツボカズラがあった。
お世辞にも家事は立派にこなしていたとは言えないお袋が
何故かそれらだけは枯らさずにいつも玄関先に植えていたのだ。
罠を仕掛けて虫を体内に取り込み、
二度と逃げられないように囲いドロドロに溶かして自分の養分にする
そんなグロテスクな食虫植物と
それを何故だか後生大事に育成するお袋のイメージが重なり、ずっと嫌いだった。
だが、ある日図書館でふと手に取った植物図鑑で見つけてしまった事がある。
ウツボカズラ(学名:Nepenthes)
ネペンテスとは~悲しみ・憂いを追い払う~という意味のギリシャ語だという。
お袋はこの事を知っていたのだろうか?
今となっては知る由もないけれど、
どうか彼女の魂が安らかな場所へ逝けるようにと
ベランダに植えたネペンテスに祈りを静かに捧げた。
お袋さんは 知っていたんだろうな
♪ 人生 いろいろ ・・・・・・
ご冥福をお祈りいたします m(_._)m