Nicotto Town


フリージア


no longer love her02

それからまた半年ほどが経ったある日、私に朗報が入る。来月12月のクリスマスに安達宅でクリスマスパーティーをする、そこに結城さんが来るとのいうのだ。もちろん、彼氏とは別れていて独り。今度こそ会える、私はいろめきだった。

12月24日友人の安達宅で彼女と初めて対面した。奇麗だった。そして笑顔が素敵だった。

私たちはすぐに打ち解け、楽しい話に花を咲かせた。何を話したのかは正直覚えていない。しかし、二人は今日初めて会ったとは思えないほど気が合い、傍から見ればもう恋人同士としか思えないほどの仲の良さだった。そう、彼女が私に気があるように見えたのだ。彼女は誰にも聞こえないほどの声でこっそりと言う。

「片桐君、今度二人で映画でもいかない?」

嬉しい言葉だった。もうすでに彼女に恋をしていた私は、もっともっと彼女を好きになっていた。

それから何度もデートを重ねた、映画、食事へ行ったり、年を越して雪が降る季節にはスノーボードへ二人で行ったり、私にとって楽しい日々が続いた。

で、告白だ。6回目のデート、彼女のショッピングに付き合った帰りだった。

「もしよかったら、付き合ってほしいんだけど……」

彼女の答えは早かった。考える間もなく、ほぼ即答と言ってもいい。

「ごめんね、今は特定の彼氏とか作りたくないの」

考えていた答えと違う事に動揺し、次の声が出なかった。そんな私をよそに彼女は笑っている。この期に及んで笑っているのだ。それを不思議に思ってなおさら声が出なかった。

「で、どうする?」

彼女は笑顔とは思えないような冷静さでそう言った。それでも声の出ない私に業を煮やしたのか、もっと冷静に話し始める。私の動揺をおさめようとしたのかもしれない。

「もう会うこともなく連絡もしないか、それとも友達のままでいるか。どっちにする?」

彼女はドライで、私よりも数段に大人だった。自分の子供さ加減に恥ずかしさを感じながらも。

「………じゃあ、友達で…」

「そ、よかった」

彼女は分かっていたんだ、私がどちらを選ぶかを。友達のままでと答えるのを分かっていたのだ。もう会えなくなるのだけは考えらない、それほどに彼女の小悪魔的な魅力から逃げることができなった。

そして私は気持ちを切り替えた、友達ならばまだ彼女になってもらうチャンスはあると。そうまだチャンスはあると。振られてしまったことを棚に置き、これまで通りに振る舞い、そして接する。そうだこれでいいと。

それからも定期的にデートは有った。ただ、明らかにそれまでとは変わったところがあった。それは時間。

会っている時間が段々と減っていったのだ。4時間が3時間に、3時間が2時間にと…もちろん3年生になって私は受験に向けて時間を割かなければならなかった、しかし時間の指定は結城さんからで、あからさまな処遇の違いだった。

私は2年までやっていたバイトを辞めたので彼女のために使えるお金は少なくなっていた。今思うとそれが原因だったのかもしれない。デートでのすべての支払いは私が行っていた、それは男として当然だと思っていたから。

周囲の友人たち、とくに安達は私を心配していた。私が彼女の話をすると、もう諦めたらどうだという顔をする。私に気を使ってか直接言葉にしては言わなかったが、彼の表情でそのことは十分に分かっていた。

だが、まだ彼女を諦められなかった。私は追う者のぎらついた眼を持っていた。あれだけ楽しい時間を過ごしていて恋人になれないはずがない、そう思っていた。でも、心は辛かった。

私はデート代を捻出するために、昼食を抜くという荒業を考えた。両親に昼食代の1000円を貰い、それを使わないのだ。クラスメイト達が昼食を食べているのを見るのは辛かったので、その間はずっと廊下で過ごしていた。空を見て気を紛らわしたり、水道の水で腹を満たしたりもした。今考えれば本当に愚行としか言いようのない事だと思う。その時はこれが正解だと思っていたのだから笑えるよ。私は見る見るうちにやつれていった。

8月、彼女の誕生日があった。その日は夕食を一緒にする予定でいた、それとプレゼントも携えて。プレゼントは彼女が欲しがっていた真珠のピアス。

「ありがとう~うれしい」

その満面の笑みが喜びだった。それを見ることができたら辛さなんて無いに等しかった。




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