Nicotto Town


フリージア


no longer love her03

10月も終わりになる30日、無限に続くのではないかと思われる停滞期が来る。彼女に連絡してもつれない返事ばかりで八方塞がりであった。学校内でもため息ばかりで不貞腐れ顔。
見かねた安達は。
「片桐、ナンパでもやるか」
「ナンパ?…………やるかぁ」
気持ちを切り替えたかったんだと思う。あの時の心情では安達の案に乗るわけがなかった。しかし、少しだけ結城さんのことを置いておきたかったんだと思う。あれほど好きだったのに、それほどしんどかったのだ。
私と安達、そして後友人3人計5人で、繁華街の片町へと繰り出した。
とは言っても私は4人の後について行って、彼らが女の子に声をかけるのを見るだけだった。そしてもう無理だなと思うと、私が割って入りごめんねと女の子たちに帰ってもらう美味しい役をやっていた。それを3回繰り返した4回目の声掛け辰巳頭高校の3人組の時のことだった。3人のうち1人は乗り気、2人はあまり気乗りしない感じであった。
「ね、一緒にカラオケ行こうよ」
優しい声でも2人の顔はこわばったまま。私も後ろから乗り気の1人よ頑張れと願っていたのだが、2対1の多数決は決まりかけていた。ダメだ、私の出番だと仲間の列に割って入りもう行っていいよと声をかけようとしたら…
「私、行ってもいいよ」
乗り気じゃなかった2人の内の背の小さい子が賛成に回ったのだ。彼女たちの多数決は賛成に傾き、8人でカラオケへと向かった。
カラオケ―ルームに入ってとりあえず自己紹介したが、私は特に女の子たちと話すことはなく、好きな曲を歌っていた。隣に座っていた子も私には関心なさそうな表情で声をかけづらかったのもある。その子は乗り気じゃなかったのにカラオケに行くことに賛成に回った子、すごくかわいい子だった。結局はあまり来たくなかったのかなぁ?と思いながら、少し気を使い私は声をかけた。
「やっぱり来ない方がよかった?」
「…そんなことないよ」
それからが会話が続かない。ま、ナンパでのカラオケなんてこんなもんだよなと思いながら時が過ぎていった。
帰り、一応は携帯の番号を交換したが、かけることは無いだろうし、どうせかかってこないだろうと思っていた。とにかく気分転換にはなった日だった。

11月、私は何とか志望していた地元の大学の推薦入試に合格し、ほっと一安心していた。ほかのクラスメイトがまだ進路の決まっていない者が多い中、私は幸運だったと思う。友人の安達は建築関係の専門学校に行くことになっていた。
そこでまたクリスマスの話題になる。去年同様、安達の家でパーティーを開くことにした。進路が決まっているものだけでということだったが、結城さんはどうなのか?私が聞いておくということで。
「結城さん、今度またクリスマスの集まりをするんだけど、来れる?」
「うん、行く行く~、安達君たちもいるんでしょ?」
「そう、あと進路が決まった何人か呼ぶ予定なんだよ、結城さんは決まったの?」
少しだけ沈黙があった後、結城さんは一言だけ言った。
「うん、決まったよ」
「そう、それはよかったね。今年は23日の土曜日で時間は6時から」
「分かった、楽しみにしてるね」
楽しみにしているという言葉で久しぶりに胸が躍る。私は彼女へのクリスマスプレゼントを購入し、その日に備えた。プレゼントは彼女が欲しがっていたブランドの指輪にした。私は無謀にも、もう一度告白してみようと考えていたのだ。
23日、6時を過ぎたが彼女をまだ来なかった。少し遅れるんだろうとあまり気にせず会は始まった。10分、20分経ち…携帯に連絡してみたが出ない。何かあったのか心配になる。
40分が経った時だった、安達の携帯が鳴る。結城さんからだ。
「遅刻だよ、何かあったの?………え?道に迷った?なら迎えに行くよ」
道に迷った?何を言っているんだ?
「うん……うん……そっか、じゃあしょうがないね、分かった、みんなには言っとくから、うん…じゃあ」
「結城さん?」
「ああ、今日は来られなくなったって…なんか道に迷ったらしいわ」
道に迷った?そんな言い訳か…そんな言い訳しかなかったのか…来る気が無いのなら、はじめから断ってほしかった…
私は彼女に電話することはできなかった。そんな勇気はどこにもなかった。彼女は、どこか違うところでクリスマスを楽しんでいるに違いない。私がいない場所で違う誰かと…
男女7人いた、二次会はカラオケと決まっていたが、私は断った。その場の空気が重くなるのは分かっていたが、どうしてもみんなといることができなかった。辛すぎて。
安達もとめることはしなかった。
みんなに別れを告げたことも朧気に、私は家路へと歩いた。街はクリスマス一色に染まり、誰も彼もが心躍らせている。私はそれを目の当たりにし、どうにも途方に暮れるしかなかった。
悲しさ、悔しさ、情けなさ、すべての負のイメージが心を支配する。根拠のない自信があったのは確かだ、しかし、もしかしたら来ないかも…そんな負のイメージも頭の片隅に一欠けらあったのも確かだった。
私の心はここで折れた。




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