Nicotto Town


フリージア


no longer love her04

ふと気が付くと私は金沢市の中央を南から北へと流れる犀川の河川敷へと辿り着いていた。渡そうと思っていたプレゼントを握りしめ、川へ近づく。
ここへ辿りつくまでに幸せそうな人たちとたくさんすれ違った。目に見える幸せを感じて、自然と笑みをこぼす瞬間もあった。クリスマスは不思議だよ、自分が不幸なのに人の幸せを祝福する気持ちが失われないのだから。
街の明かりが微かに映る水面へ向かい、彼女が欲しがっていたプレゼントを投げ捨てた。ポチャンと悲しい音を立てて何重もの波紋を造り、プレゼントは暗闇へと消えていく。
その街明かりを歪ます波紋は、私の心を和ますことは無かったが、意外ときれいに感じたことが救いだった。
救い…私にはそれがまだあったのだった、救いが…
プレゼントへの惜別を終え、歩き出そうとしたとき携帯が鳴ったんだ。携帯の画面には見知らぬ番号が出て富田涼子という名前が出ていた。
「富田?…」
電話に出ると、どこかで聞いたはずの声。
「こんばんは、片桐さんの携帯でいいんですよね?」
「あ、はい」
「もしかして忘れた?ほら10月の終わりにカラオケを一緒に言ったでしょ、そこで隣に座ってたんだけど…」
「ああ。あの時の、ごめんごめん、思い出した」
黒く歪んだ心に染みる明るい声。
クリスマスだからとわざわざ電話してきたらしい。というか前々から電話したかったのだが、勇気が出ず1カ月も迷っていたみたいだ。
「あの時、全然俺に興味ない感じだったけど」
「それは……緊張してたし……」
ちゃんと聞くと彼女は1年生だそうだ。けど物おじしないフランクな話し方で、でもそれがすごく心地よく、私は家路へ向かい歩きながらも会話は弾んだ。
彼女は私を気に入っているみたいだ。それを言葉には出さないが、話している雰囲気でにじみ出てくるのが分かる。声が楽しそうなんだ、そして嬉しそうに感じる。
「そうだ、年末にさ、初詣一緒に行く?」
「え?いいの?」
「うん、いいよいいよ、っていうか是非是非」
まさしく、捨てる神あれば拾う神ありという言葉通りの展開だった。ありがたかった。
年が明け、程なくして私たちは付き合うことになった。結城さんには何も言わなかった、明けましておめでとうというメールにも、おめでとうと素っ気ない返しをした。
心が折れたと同時に、彼女への気持ちももう無くなってしまったのかもしれない。

2月、バレンタインデーが近づいていたある日、私たちは片町で待ち合わせをし、街をぶらつくデートをするつもりでいた。で、片町のバス停のベンチで待っていた時、そのバス停の前にある若者向けの百貨店の入り口から見覚えのある女性が出てきた。
結城さんだった。彼女は私を見つけて、うれしそうな顔で駆け寄ってきた。なんで私を見つけてうれしいのか分からないが…
「片桐くーん、久しぶり~」
彼女と会うのは9月にお昼ご飯を一緒に食べに行った以来だ。
「久しぶり」
彼女は笑顔。クリスマスのことなどどこ吹く風、なんとも思っていないのが丸わかりな表情だ。
そこにバスがやって来て涼子が降りてきた。私を見つけて手を振りながらも、すこし怪訝な顔。なにせ私の目の前に見知らぬ女性が親しげにいるのだから。
私は涼子の方に体を向け。
「早かったな」
結城さんは、真顔になり首をかしげる。もちろん私が涼子と付き合っているのは知る由もない。
「片桐君、もしかして彼女?」
「ああ、そうなんだよ」
その時、私たち二人へ鋭い目を一瞬だけ向けて、またすぐに笑顔に戻った結城さんは一言。
「可愛い彼女ね」
私は無意識に勝ち誇ったような笑みを浮かべ。
「ああ、じゃあね」
もう彼女と話すこともない、それよりも涼子との時間が大切だ。私は振り向かなかった。
「あの人、誰?」
私は自信をもってこう答えた。
「友達だよ」




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