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新人検事は「自白調書」の捏造を教えられる2/2

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 事件の発端は佐賀地検に届けられた一通の告発状でした。そこには当時佐賀市農協組合長だった副島勘三さんが、不 正な融資を行っている、と書かれていまし た。それで地検は特捜捜査をかけたわけですが、その告発状は、組合長を引きずり下ろしたい農協内の一グループによる中傷だったことが、後の裁判で明らかに なりました。その裁判の過程で、我々検察の捜査の杜撰さが次々と露見していきました。

 一審は無罪。検察は控訴しましたが、二審の高裁で控訴棄却され、検察が無罪の証拠を隠匿したことも露見したため、完全無罪が確定しました。

 事件当時、私は三席検事で、地検トップの検事正、その下の次席検事に次ぐポジションにいました。その私が事件を担当する主任に命じられたのは、副島さん に対する強制捜査の前日です。次席検事に、「明日ガサ(捜索)入れるから。君が主任だ」と、まったく突然言われました。

 私はそれまで副島さんの話も聞いていなければ、証拠類も最低限のものしか読ませてもらえなかった。しかも私はその後研修出張があったため、主任検事だと いうのに、ほとんど捜査に関わることさえできなかった。次席検事には「君がいない間に第一陣逮捕しとくから」と伝えられました。

起訴の判断は通常主任検事が行うのですが、この事件でははじめから検事正と次席検事が起訴と決めていました。不起訴の意思を示すと、検事正に「お前も諦めろ」と諭されました。もう上で起訴と決まっているから諦めろ、という意味です。

 出張から戻り、取り調べに入っても、正直な話、被疑者から何を聞いたらいいかも分からない。有罪・無罪の判断もつかない。けれども上司の次席検事からは 「とにかく割れ(自白させろの意)」としか言われない。私は強引に取り調べを進め、暴言を吐いたり脅したりして調書をまとめました。

調書には「本日まで嘘をついてきましたが、検事さんの話を聞き、もはや言い逃れできないと思い知りました。私は罪を認めます」という「自白」が記されてい ました。私は聞いたものをまとめたつもりでしたが、副島さんはこんなことは一言も言っていないとおっしゃっていました。我々のつくった調書には杜撰な点も 多く、取り調べをした参考人の生年月日も間違っていたほどでした。

■夢から醒めた
当時の私には、上が「起訴する」と決めたことに逆らうだけの力が欠けていました。これが私の最大の過ちでした。検事は勝てる事件しかやりません。どうやっ ても有罪をとれそうになかったら不起訴にします。その選別能力があるのが検察だ、という考えです。逆に、起訴してしまったら、絶対に無罪は出せない。負け るわけにはいかないんです。なんせ検察は「正義」の役所なんですから。

 事件の公判中に、私は横浜地検小田原支部に移りました。このとき、副島さんの無罪が確定しました。私はずっと罪の意識を抱いていたので、判決にはホッと するとともに、取り返しのつかない過ちを犯してしまったという自責の念に駆られました。こうして12年間の検事生活にピリオドを打ったのです。

 思えば検事時代は非常に狭い範囲で生活していました。大半が官舎に住み、同じ検察庁に通う。外で飲むと何かと危険なので、飲みと言えば酒屋にビールを配 達してもらって検察庁内でやる。外で飲むなら検察庁ごとに決められた「この店は安全」という1~2店にしか行きません。

 そんな状態ですから、法曹関係を除くと、検事の人付き合いは、高校・大学の同級生くらい。話し相手はほぼ検事です。価値観は固定され、視野狭窄になるのも当然です。

出世コースも限られています。法務省から上がっていくルートと、特捜から上がっていくルートの2種類です。法務省ルートは人事評価の基準が傍目には分かりにくい。ですから、現場でのし上がるには、特捜にいくしかありません。

特捜では頻繁に人事異動があります。せっかく特捜にきても、1年でお払い箱になるということもざらです。2年、3年と残って初めて本当の「特捜検事」なのです。

 特捜は、全国の検事から選りすぐりの「割り屋」が集められた組織です。割り屋とは、自白を取る(=割る)のがうまい検事のこと。若手検事は本人が特捜に行きたいか否かにかかわらず、割り屋になるべく上司から鍛えられます。

 今の割り屋は、出世への焦りと、上司からの締め付けによって、本来の意味での自白を引き出すのではなく、検察サイドが望むような調書を取るのが上手い人 という意味に変質しているのではないかと思います。自分たちに都合のいい事実をつくり上げるためなら、証拠の改ざんにも手を染めるというありえない暴走 が、今回の大阪の事件のケースでしょう。

検事を辞めて5年が経って、やっと検察を客観視できるようになってきました。いまは夢から醒めたような気分です。

~~~転載おわり





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