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【厚労省に国民の命は預けられない 村重直子】1

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【厚労省に国民の命は預けられない 村重直子】 1

    役人が牛耳る限り「医療イノベーション」なんて夢物語

     政府は今月7日、新成長戦略の一環として、日本発の医薬品、医療機器、再生医療などを医療現場で実用化するため、「医療イノベーション推進室」を設置した。室長は東京大学医科学研究所の中村祐輔氏。「輸入品から輸出品を差し引いた金額は1兆円に迫る」と危機感を示し、「日の丸印の薬や機器を」と意気込みを見せた。
     日本発の医薬品を国内に限らず世界に普及させれば、官僚が市場規模を抑制しているジリ貧医療が、成長産業に生まれ変わる。大いに期待したいところだが、残念ながら厚労省の官僚主導では心もとない限りだ。
     私は医師として日米の医療現場で働いた後、厚生労働省で医系技官として2010年まで勤務した。厚労省の官僚が、患者の治療の選択肢を奪い、進歩しているはずの医療の恩恵よりもジリ貧の医療を国民に強いている実態は、拙著「さらば厚労省」にもまとめた。
     厚労省の官僚が「外国の後追い」をよしとしてきた結果、外国では使える薬が日本では使えないという「ドラッグラグ」が常態化したのである。
     厚労省は、外国での使用経験やデータがない「日本発」のものは承認したがらない。外国の患者は未知の副作用リスクも負いながら新薬の恩恵にあずかる。日本は、それを長年傍観し、外国データが十分に蓄積されてから「世界で最後に承認」しようとしているかのようだ。

     この間、患者さんは治療の選択肢を奪われてしまう。

     例えば抗がん剤タモキシフェンやてんかん薬カルバマゼピンなど、既に“投薬前に遺伝子検査”すれば効きやすい人・効きにくい人、副作用が出やすい人・出にくい人などを区別する研究成果があるのに、日本人はその恩恵にあずかれない。

●外国で使える薬が日本では使えない
 一方、きちんとバランスを取るのが世界の潮流だ。新薬を待ち望む患者のために早期に承認し、そのかわり承認後もデータを集め続ける。
 日本でもまれに見る成功例がある。肺がん治療薬のイレッサだ。医薬品医療機器審査センター(現・総合機構=PMDA)は2002年、世界に先駆けてイレッサを承認した。さらに日本の医師たちが2010年に世界へ向け発表した研究成果のおかげで、“投薬前に遺伝子検査”をすれば、効きやすい人・効きにくい人を区別でき、その結果、効かない人は副作用リスクを負ってまで内服しなくてすむようになった。これは日本が世界に誇れる日本発のイノベーションだが、イレッサの間質性肺炎という副作用の問題で国家賠償訴訟となっており、このほど、裁判所による和解勧告が行われた。
 新薬に期待しながら命を落とした方には謹んで哀悼の意を申し上げたいが、現時点で誰が間質性肺炎になりやすいかを事前に区別する方法は確立していない。医学の限界、人類の限界なのだが、それを国民は知る権利がある。
 新薬の医学的・科学的情報は、PMDAしか知り得ない。厚労省の支配下にあるPMDAは専門家が自ら発表することができず、厚労省の名で官僚が発表する。PMDA幹部41人のうち33人が厚労省からの現役出向者だ。医療イノベーションを目指すのであれば、PMDAにおける厚労省支配を排除し、私たち国民が正しい情報を知りチェックしていく必要がある。

▽むらしげ・なおこ 1998年東大医学部卒。ニューヨークのベス・イスラエル・メディカルセンター、国立がんセンター中央病院などに勤務後、厚労省へ。2010年3月退官。現在、東京大学勤務。



2011年1月24日 掲載
http://gendai.net/articles/view/syakai/128669
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アバター
2011/10/07 09:19

【厚労省に国民の命は預けられない 村重直子】 1

役人が牛耳る限り「医療イノベーション」なんて夢物語

 政府は今月7日、新成長戦略の一環として、日本発の医薬品、医療機器、再生医療などを医療現場で実用化するため、「医療イノベーション推進室」を設置した。室長は東京大学医科学研究所の中村祐輔氏。「輸入品から輸出品を差し引いた金額は1兆円に迫る」と危機感を示し、「日の丸印の薬や機器を」と意気込みを見せた。
 日本発の医薬品を国内に限らず世界に普及させれば、官僚が市場規模を抑制しているジリ貧医療が、成長産業に生まれ変わる。大いに期待したいところだが、残念ながら厚労省の官僚主導では心もとない限りだ。
 私は医師として日米の医療現場で働いた後、厚生労働省で医系技官として2010年まで勤務した。厚労省の官僚が、患者の治療の選択肢を奪い、進歩しているはずの医療の恩恵よりもジリ貧の医療を国民に強いている実態は、拙著「さらば厚労省」にもまとめた。
 厚労省の官僚が「外国の後追い」をよしとしてきた結果、外国では使える薬が日本では使えないという「ドラッグラグ」が常態化したのである。
 厚労省は、外国での使用経験やデータがない「日本発」のものは承認したがらない。外国の患者は未知の副作用リスクも負いながら新薬の恩恵にあずかる。日本は、それを長年傍観し、外国データが十分に蓄積されてから「世界で最後に承認」しようとしているかのようだ。

 この間、患者さんは治療の選択肢を奪われてしまう。

 例えば抗がん剤タモキシフェンやてんかん薬カルバマゼピンなど、既に“投薬前に遺伝子検査”すれば効きやすい人・効きにくい人、副作用が出やすい人・出にくい人などを区別する研究成果があるのに、日本人はその恩恵にあずかれない。
アバター
2011/10/07 09:18


●外国で使える薬が日本では使えない
 一方、きちんとバランスを取るのが世界の潮流だ。新薬を待ち望む患者のために早期に承認し、そのかわり承認後もデータを集め続ける。
 日本でもまれに見る成功例がある。肺がん治療薬のイレッサだ。医薬品医療機器審査センター(現・総合機構=PMDA)は2002年、世界に先駆けてイレッサを承認した。さらに日本の医師たちが2010年に世界へ向け発表した研究成果のおかげで、“投薬前に遺伝子検査”をすれば、効きやすい人・効きにくい人を区別でき、その結果、効かない人は副作用リスクを負ってまで内服しなくてすむようになった。これは日本が世界に誇れる日本発のイノベーションだが、イレッサの間質性肺炎という副作用の問題で国家賠償訴訟となっており、このほど、裁判所による和解勧告が行われた。
 新薬に期待しながら命を落とした方には謹んで哀悼の意を申し上げたいが、現時点で誰が間質性肺炎になりやすいかを事前に区別する方法は確立していない。医学の限界、人類の限界なのだが、それを国民は知る権利がある。
 新薬の医学的・科学的情報は、PMDAしか知り得ない。厚労省の支配下にあるPMDAは専門家が自ら発表することができず、厚労省の名で官僚が発表する。PMDA幹部41人のうち33人が厚労省からの現役出向者だ。医療イノベーションを目指すのであれば、PMDAにおける厚労省支配を排除し、私たち国民が正しい情報を知りチェックしていく必要がある。

▽むらしげ・なおこ 1998年東大医学部卒。ニューヨークのベス・イスラエル・メディカルセンター、国立がんセンター中央病院などに勤務後、厚労省へ。2010年3月退官。現在、東京大学勤務。



2011年1月24日 掲載




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