食の堕落
- カテゴリ:美容/健康
- 2012/07/04 22:52:45
...memo
食の堕落
偉大なる日本の伝承食を思い出せ
小泉武夫 『エコノミスト』(毎日新聞社) 2004年2月24日号
「身土不二」という言葉があります。食べ物はできるだけ自分が住んでいる土地の近郊でとれた物を食べる方がよい、という教えです。それは波長が合うからで す。しかし、いまや食糧自給率が先進国最低の40%にまで低下したこの国の国民には望めないことでしょう。毎日の私たちの食卓に乗ってくる輸入食品は、実 際にはどのようにつくられているかを確かめることが難しいため、安全性の面からも気になります。
ということで、私たちはまず自分から今日の食生活のあり方から見直していくべきではないでしょうか。著者も、アメリカナイズされた現在の食生活を改めて、日本の風土に合う昔からの食生活に戻るべきだと呼びかけています。 (なわ・ふみひと)
日本古来の食文化、食生活を放棄し、食料を海外に依存したままでは、やがて日本は滅ぶ
BSE、コイヘルペス、鳥インフルエンザと、我々を取り巻く環境、特に食の世界が今非常に不安定な状態になっている。
これらの問題の原因はすべて人間が環 境破壊を進めてきた結果だ。
人間は科学の力で自然を征服し、地球上で最も知恵と力のある動物だと過信した。その結果、自然との調和が失われ、様々な問題が 発生している。
驕りが生んだ食の危機
遺伝子組み換え穀物も、一部の学者は「絶対に安心」というが、事実は異なる。
海外の研究では既存の種子に野生型のDNAを組み込むことで病害虫に強い穀物 を作ったが、収穫後の大豆や小麦を食べた虫が死んだことで注目された。
虫が死んだのは毒性たんぱく質が原因だろう。
遺伝子を組み換えるとたんぱく質の構造 が変わり、アミノ酸の配列が変われば、毒にも薬にもなる。
安全が確かめられていないのに、「遺伝子組み換え食物は大丈夫だ」というところに人間の驕りを強 く感じる。
BSEにしても、肉骨粉を飼料とすることで牛に共食いをさせたことに問題の発端がある。
「肉骨粉を食べさせればいい肉ができる。 牛 乳 がいっぱいとれる」という、自然の摂理を無視した人間の打算的な行動がBSEの問題を生んだ。
鳥インフルエンザについても、人間の都合でブロイラーのよう な狭くて苦しい環境で鶏を飼えば、病気にかかりやすくなるのは当たり前だ。
ここ数年、輸入食品から日本の基準を超える残留農薬や抗生物質、ホルモンなどが検出され、問題になっている。
これは自分たちで安全な食べ物を作ろうとせず、外国に食料を頼っている民族の弱さだ。
日本の食料自給率は40%(2001年)にまで落ちている。アメリカは122%、フランスは121%、カナダは142%、オーストラリアは265%だ。
そ れでもアメリカは「日本はもっと農産物を輸入すべきだ。
関税も引き下げ、自動車や家電をアメリカに売ることで得たドルで農産物を買って還元せよ」という。
このまま何の対策も打たなければ、十数年で日本の自給率は20%に下がるだろう。
おいしくて、安全な食品を食べるには、地域で生産されたものを地域で消費する「地産地消」を進めていくしかない。
最近、地産地消やスローフードとしきりに言われるが、これは決して新しいことではなく、戦前の日本がそうだった。
私がもし総理大臣だったら、「食の非常事態宣言」をして、自給率を上げるために食糧増産を図る。地方も国の言うことなど聞かずに地産地消を進めればいい。
学校給食も地産地消とし、各県に推進協議会を作り、県にあるすべての団体、流通も生産も一体になって県単位で地産地消運動を進める。
人口約3800人の大 分県大山町で始まった地産地消運動では、組合員640人のJA大山町(農協)の2003年の売り上げが約30億円に達した。
農家は1軒当たりの平均収入が 2000万円を超すところが大半となり、町の自給率も100%近くに達した。やればできるわけだ。
日本の農業もやり方次第では豊かな産業、 す ば らしい職業だということを実践すれば、若者も農家に帰ってくるし、後継者も生まれる。
「食育」(食の教育)の問題でも、子供たちに食べさせるばかりでな く、「食の前に土ありき、農ありき」を教えることも重要だ。
農業なくして食料は簡単に手に入らないという感謝の気持ちを持たせ、
農に対する魅力を感じさせ ることが、
未来を背負って立つ子供たちにとって大切なことで、
それが将来の食の安心・安全の問題を解決することにつながる。
自給率 低 下 と並ぶもう1つの問題は、戦後日本の食生活の激変ぶりだ。
1960年と98年で比較すると、肉の消費量は約8倍、油の消費量は約10倍だ。
かつて日本人は 質素で低たんぱく、低カロリー、低脂肪の食生活を送っていた。
しかし、この30年間でまったく逆のカロリーやたんぱく質摂取至上主義のアメリカナイズされ た食生活になってしまった。
いかなる世界の民族も、これほど急激な食の変化を経験したことはない。
実際、日本人が山のように焼き肉を食べて も そ う力にはならない。逆にコレステロール濃度も中性脂肪も高くなる。
プロ野球・西鉄ライオンズの稲尾和久さんは1961年には年間78試合に登板し、42勝 もした。
その力の原動力は、別府のお父さんから送ってもらった魚とご飯を食べていたからだ、という伝説さえ残っている。
今のプロ野球選手は焼き肉が好きだ と言ってたくさん食べているが、1回登板するとひじや肩を壊すといって5日間は投げない。
1945年に東京が焼け野原になったが、5年後に は 世 界で5番目の都市に復興した。
肉など食べられない状況の中で、みんな日の丸弁当、握り飯、漬物、納豆、魚の干物などで頑張った。
日本人の食の激変は、
草食 性動物が肉食性動物に変わったほどのものであり、
民族としての驚くべき一大変換だ。
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「納豆汁」に返れ
食の安全に向け、今すぐできることの1つは、日本に伝承されてきた発酵食品を摂取することだ。
例えば、大豆を炊いてそのまま食べる。
これでは豆と人間の関係でしかないが、そこに納豆菌が入れば、消化がよくなり、血栓を溶かす物質や血圧を正常にしてくれる酵素を出してくれる。
発酵とは、
発酵菌が原料と人間の間に介在し、人間の味方となる様々な栄養素や活力源を作ってくれることで、
人はそれを摂取できる。だからこそ発酵食品は素晴らしい。
ビタミン剤やビタミンドリンクを飲む人が多いが、
その大半が合成ビタミンであり、人間の体に吸収されにくい。
ところが甘酒の中に入っている麹菌で作られたビタミンは、それとは比較にならないほど体内に吸収される。
米麹から作られる本来の甘酒は20%以上のブドウ糖を含み、
そのうえ、
麹菌はビタミンB1、B2、B6、パントテン酸、イノシトールなどの天然吸収型ビタミンも大量に作ってくれる。
さらに学問的に知られているすべての必須アミノ酸も含んでいる。
これは現代医学で言えば、点滴にほかならない。
甘酒は夏の季語だ。
江戸時代には、真夏になると、甘酒売りが「一杯四文也」で売り歩いていた。
江戸時代の人は、夏の弱った体を癒す知恵として発酵食品の偉大さを知っていたのだ。
日本の食文化は昔からそれほど素晴らしい。
戦後、アメリカの栄養学が入り、
「芋など炭水化物ばかり食べて、たんぱく質を全く摂らない」と日本の食生活を批判し、
カロリー至上主義、たんぱく質摂取至上主義に変えてしまった。
しかし、それは全くの誤りだ。
大豆のたんぱく質の含有率は平均17.5~18.5%。
牛肉のたんぱく質は18~18.5%。だからこそ、大豆は「畑の牛肉」といわれる。
現在、納豆はご飯にかけて食べるものだと思われているが、江戸時代は味噌汁に入れて食べていた。
さらに、この納豆汁の具は豆腐と決まっていた。
その納豆汁を朝昼晩食べたら、今のアメリカ人の平均のたんぱく質摂取量とそう変わらない。
「日本の食生活は、栄養のバランスが整っている、カロリーの摂り方が理想的、食材がヘルシー、の3点で素晴らしい」と世界の栄養学者は指摘する。
しかし、彼らは「これほど素晴らしい食文化があるのに、なぜ日本人はアメリカナイズされた食生活に変えてしまったのか理解できない」という。
その責任は家庭にもある。
面倒臭がって「お母さんは今日疲れているから出前のピザを取ろう」というと、子供たちは喜んで電話をかける。なんでもお金で解決してしまう。
講演などで小学生に食に関する授業をした後、お母さんたちに「学校給食ばかりに頼っていては駄目で、たまには弁当を作って食べさせなければ駄目です」というと、お母さんの中には「共稼ぎで作ってあげる時間がない」という。
私はその時こういう。「8時間働いて、疲れているから8時間寝たらいい。
でも1日24時間あるのだから、残りの8時間で子供の食べるものを作れないのですか」というと黙ってしまう。
日本人は今、多くの人が権利ばかり主張して義務を果たさなくなった。楽をしようという世界が食の世界でも多くなってしまった。それを見て育った子供たちは、大人になったらきっと同じことをするだろう。
●著者略歴●
東京農業大学教授。農学博士。1943年、福島県生まれ。専攻は醸造学、発酵学。『くさいはうまい』(毎日新聞社)など著書は90冊を超える。
Bookstand食べ物
http://www.h2.dion.ne.jp/~apo.2012/bookstand-foods05.html
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