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細胞を守るインターフェロン 3/5


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生薬から発見したインターフェロン・インデューサー
──"自然との調和と共生"の漢方の道へ──
多くの漢方生薬からインターフェロン(IFN)・インデューサーを発見


小島 1967(昭和42)年、私は東大伝染病研究所(現医科学研究所)から当時は半官半民のような北里研究所に移りました。その3年後、日本初の「東洋医学総合研究所」が北里研究所に設立されました。
 免疫には見られない、ウイルス材料中の"敵(ウイルス)・味方(インターフェロン)共存"の現象は私の興味を引きました。この現象は東洋医学、東洋思想に伝わる「身土不二」、「自然との調和と共生」に通じます。
 北里に移ってから私は「自然との調和と共生」に的を絞って、インターフェロン・インデューサーの研究を続けました。
  世界の研究者が行ったマウスを使った注射方式では、短期間で高力価のインターフェロンが得られますが、毒性が強く、実用には耐えない。ましてやがんや肝炎 など現代病は長期戦(14頁・図5)ですから、長期間にわたって細胞を守る必要があります。しかも、注射方式ではマウスの臓器でインターフェロンを作りま す。マウスとヒトでは細菌内毒素の毒性の感受性も違い、また各臓器は独自の重要な役目を果たしていますから、その役目を疎かにしてインターフェロン作りに 専念させるのは長期にはよくありません。
 北里研究所に移ってから私は、漢方生薬からインターフェロン・インデューサーを探してみました。漢方生薬70余種を調べたところ、約30種ほどがインターフェロンを誘発しました(17頁・表5)。これは驚くべき数でした。
 この発見から、私は漢方の神髄を探ってみました。漢方生薬ではなぜ、注射でなく内服なのか? 
百度の水で煎じるのか? 乾燥させるのか? 何種類も混ぜるか?──等の基礎研究を重ね、これらは病いの長期戦に対し、口を通じてもろもろの細胞を強化していることがわかりました。
 例えば、乾燥させると水が中まで入って十分な成分が出るのです。また、点滴から栄養補給していた患者が口から食事をとれるようになるとにわかに元気になるように、漢方薬が注射ではなく、内服で行われていることの重要な意味合いもこれに含まれています。
  こうした漢方の基礎研究から、材料となる生薬は、生薬の中でも食品に分類されるようなより安全なものを用い、マウスよりも細菌毒性の感受性がヒトに近いウ サギの新鮮なマクロファージに着目し、長期実用が可能なインターフェロン・インデューサー開発の成功の糸口をつけたのです。



IFN・インデューサーを口からとることの重要性
──腸管(粘膜)免疫とマクロファージ──

小島 腸管は食物を通して、常に大量の微生物や寄生虫ともふれ合い、時にはこれを排除し、時には共生関係が成立しています。
 系統発生的に、動物が多細胞化した時に最初に出現したのが腸です。同じことが個体発生でも見られ、肺、肝臓、脾臓、胸腺や尿道も腸に由来しており、腸は母なる臓器とも言われています。
  このように、腸管は血中とは異なる独自の免疫系、神経系、内分泌系が、ネットワークとなって展開しています。口の中の微妙な出来事が脳を刺激し、これらと 関連をもつ食事からのインターフェロン・インデューサーや腸内細菌の存在が、免疫とは異なる非特異的防御作用として重要視されてきています。
 調和のとれたこれらのダイナミクなネットワークにより、私達のエネルギー源である食物を無毒化して消化吸収し、時には特定の抗原に対して免疫学的に不応答になって腸管を通過させる免疫寛容の現象も見せるのです。
 消化器系は口に始まり肛門に終わる約9m(食道25cm、胃1~2・、小腸6~7m、大腸1・5m)の消化管と、肝臓、胆嚢、脾臓などの付属臓器から構成されています。
 腸管の粘膜は皮膚や呼吸器と共に外界にさらされている点で特異な臓器です。皮膚は外界のバリア(防御壁)になっていますが、その面積は1・6平方メートルです。それに対し、腸管は小腸と絨毛の表面積だけでも200~400平方メートルもあります(図4)。
 腸管粘膜は、リンパ小節が集まったパイエル板という免疫細胞のたまり場があり、またM細胞という特殊な細胞もいて、細菌などの大きな分子でも取り込んで細胞内で分解することもなくマクロファージに引き渡します。
 漢方生薬に見出された高分子のインターフェロン・インデューサーも消化されずにこのルートを通り、マクロファージ内にインターフェロン生産の下地が築かれます。
  また、別に侵入した抗原はマクロファージに消化され、作り出された抗原情報はヘルパーT細胞(胸腺由来のリンパ球)に提示されます。そして、B細胞(骨髄 由来のリンパ球)による抗体産生へと進展します。腸管に存在するヘルパーT細胞は胸腺で分化教育を受けたαβT細胞の他に、肝臓の類洞で分化教育を受けた より強力で早く作用するγδT細胞が約50%ほど存在します(図4)。
 さらに、腸管には全身のB細胞の約70~80%が待機しています。これらのB細胞が作り出しているのが分泌型の抗体IgAで、血管には行かずに粘膜表面に分泌され、細菌やウイルスなどの侵入を防いでいます(図4)。


IFN・インデューサーと連携プレイ

──マクロファージを活性化し
自前のインターフェロンを作る──小島 漢方生薬(食物)由来のインデューサーはマクロファージが好んで食べ、インターフェロンを作り出したり、リンパ球を活性化したりします。
  マクロファージは、生物に備わった最も基本的な防御システムで、アメーバのような単細胞生物から高等な多細胞生物まで備わっている原始的な免疫細胞です。 貪食(大食)細胞などとも呼ばれ、相手を選ばず(非特異的)、体の中に入ってきた異物や壊れた細胞を掃除する働きをします。それと共にいろいろな化学物質 を放出して免疫の応答を活発にしてくれます。
 マクロファージは普段は掃除や生体調整に働いていますが、活性のある外敵が侵入して来たり、体内にあるウイルスやがん細胞が活性化し始めると、途端にマクロファージが活性化して「活性マクロファージ」となり、殺作用を発揮し、私たちの体を守ってくれます。

  インデューサーはこのマクロファージを活性化してくれるのです。しかも、マクロファージが活性化すると炎症反応が強くなるといわれますが、漢方生薬由来の インデューサーは免疫力を高めながら、炎症を起こさせない珍しい作用を持っています。炎症を抑える薬は同時に免疫力も落としてしまうので、これは漢方独特 の作用です。

 インデューサーでマクロファージの活性を高めると、

・異物や老廃物などの食作用、清掃作用が高まる

・ウイルスや寄生虫などが細胞に感染するのを防ぐ働きが高まる

・がん細胞を傷害する作用が高まる

・免疫のシステム(体液性免疫・細胞性免疫(9頁・表3))が正常な働きを始める

・分泌活性が高まり、生体調節の機能が促進される

・その他、脂質の蓄積や排除、骨の形成や吸収、鉄の代謝、炎症反応や発熱

──など、生体の恒常性を維持するための反応が促進されます。




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