Nicotto Town



護られし者 (前編)

   (おことわり)

この文章には性質上、人によっては不快に思える表現や内容が含まれています。

  ・・・・

2010年(平成22年)9月 ー藻黒市


まったくアタマに来やがる。

ムシャクシャした気分でパチンコ店を出た。

ここの所どうも調子が悪い。今日もあっというまに2万飲まれちまった。ムカつくから何か
気晴らししたい気がするが財布の中にはもう2千円も入っていない。

俺は酒はやらねえから、酒かっくらって発散するなんて出来ない。

胸糞悪い気分のままコンビニに入った。

空揚げ弁当と、お茶、(パチンコ攻略10月号)を持ってレジの方に歩いてい行く。

レジを待つ列に小さな女の子を連れた女が並んでいる。

母親の手を握りぴょんぴょんと小さく跳ねている姿を見ていると俺は思わずたまらない
気分になって来る。

最後に(至福の時間)を過ごしたあの日からは、もう14年もの月日が経っている。

(俺はまだ今でも護られているはずだ)

そう言う考えが浮かんできて、俺の中には強い衝動が沸き起こって来る。

 ・・・

1979年(昭和54年)から、1990年(平成2年)にかけて藻黒市と隣接する灰神市内に
於いて幼女が誘拐、殺害される事件が4件発生した。

     (概要)

1979年8月3日、藻黒市内の5歳女児が自宅近くの神社から行方不明になり、6日後に
藻黒川河川敷で遺体で発見される。

1984年11月17日 藻黒市内のパチンコ店で5歳女児が行方不明となり1986年3月
1・7キロ離れた場所で白骨化した遺体で発見

1987年9月15日 灰神市内の公園から小2女児(8歳)が行方不明となり、翌年11月
藻黒川河川敷で白骨化した遺体の一部が発見された。

1990年5月12日 藻黒市内のパチンコ店で4歳女児が行方不明、翌日藻黒川河川敷
で遺体で発見。

 ・・・

1991年(平成3年)12月

もうだいぶ長い時間、シメあげたので、目の前でベソをかいている男はそろそろ落ちる
だろう。

こんな柳の様な貧相な風体をして、いつもおどおどとしている様な中年男なんかすぐにでも落とせると思っていたが、思いの他手こずらされた。

だが見た所、もう一息だ。

「なあ、こんな決定的な証拠があるんだ。だからいくら頑張っってみた所でもうどうにもなら
ないよ。どんどん心証を悪くするだけで何の為にもならないんだよ?」

さっきまでとは口調を変えて、諭すように優しく言ってみて泣きじゃくっている男の反応を
窺った。

「本当に・・・知りません」

消え入る様な声で男は言った。

「いつまでもふざけた事言ってんじゃねぇぞ、この野郎!ちゃんと言えって、何回言えば
ちゃんと言える様になるんだ、お前は?あぁっ!」

思わずカッとなって胸倉を掴み、すぐ目の前まで引き寄せた。

「お前、本当に人間じゃ無ぇな! お前がその態度なら、こっちだってもっととことんやってやるしか無ぇぞ!おぉ!」

両手で体を激しく揺さぶってから突き放す様にして手を離した。

椅子に叩き付けられた男はしゃくり上げている。

「俺らにだってよォ!、我慢の限界ってモンがあるんだからな。いいか!もう一回聞くぞ?
鞠子ちゃんを殺したのは、お前なんだろう?」

もう何回同じ台詞を繰り返したのか、見当もつかねぇ。

嗚咽を漏らしている目の前の男はうな垂れたまま黙り込んでいる。

「ちゃんと言えっつってんだよ!」

机を拳で思いっ切り叩いて、声を張り上げると目の前の男が項垂れたまま小さく頷いた。

その瞬間、男が落ちたのを確信した。

・・・

その日の調書を取り終えて、僕は先輩と取調室を出て喫煙室で一服した。

「ところで、さっきのアレ。あれって本当に大丈夫なんでしょうか?」

僕は思い切ってさっきから気になっていた事を口にした。

「うん?何だよさっきのアレって?」

咥えたタバコに火を点けながら先輩が聞き返した。

「店の駐車場で、害者を自転車の荷台に乗せてそのまま犯行現場まで向かったっていう部分なんですけど、あれって当日いくつかあった目撃とかなり矛盾しませんか?」

僕がそう言うと先輩はしばらくの間、僕の目をじっと見つめていたがやがて口から大きく
煙を吐き出した。

「あいつのヤサ(家)は誘拐場所のパチンコ店からはちょっとした距離があるし、あいつは
は外出する時には大抵自転車を使っている。

あの日、通報を受けてからの周辺捜索ではあいつの自転車が確認されいてない事を
考えると犯行現場までのアシに使ったと考えるのが自然だ。

目撃は他の親子連れか、何かの記憶違いだろう」

「・・・」

「まあ、もしそれが何か問題になりそうなら、コッチから出向いて証言を取り消して貰わななきゃならなくなるな」

先輩はそう言った後、目の前の一点を見つめながら大きく煙を吐き出した。

・・・

去年の5月12日事件当日、当時4歳だった遠海鞠子ちゃんの姿が見えなくなっている事に
両親が気付いたのは午後のまだ外が明るい時間の事だった。

それから間もない夕刻近くに、翌日鞠子ちゃんが遺体で発見される事となった現場近くの
藻黒川堤防上等で白いシャツを着て赤いスカートを履いた女の子を連れて歩く男の姿を目撃したと言う証言者が事件後の聞き込みと通報によって何人か現れた。

その中には、事件解決に役立ちそうな、かなり詳細な証言も含まれていた。

事件当日の夕刻、藻黒川堤防上に通じる階段近くにある公園でゴルフの素振りをして
いた会社員の証言

「今テレビでやってる岩すけとか言うマンガの・・・そう!その(それ行け!岩すけ)って
言うマンガに出て来る担任の先生、アレに似てる顔だとその時思いました。

小柄な男でした。はっきり断言までは出来ませんが160センチは無かったんじゃないか
と思います。

それと歩き方が少し変だった様な・・・。かなりの外股歩きだった様な気がします」

同時刻頃、堤防上の道路を自転車で走行中に犯人と被害女児と思われる2人とすれ
違ったと証言した藻黒第二中学勤務の女性美術教師は証言の他に、その時に見た
光景を詳細にスケッチしてみせた。

・・・

去年5月に捜査が開始されてから早期の段階で一人の男が線上に浮かびあがっていた。

パチプロを自称する藻黒市内在住、無職の29歳の男。

過去に幼児わいせつの(前)があり、顔付きや、体格、特徴等が目撃情報の内容と
酷似している。

慎重に内偵が進められた。

ある日、この男と下校途中の小学1,2年生位の女児2人が路上ですれ違う光景を
少し離れた場所に停めた車内から目撃した事がある。

すれ違った後、しばらくその場所に立ち止まり、振り返ってずっと遠去って行く女児の
後姿を凝視していた時の男の目と表情は今でも僕の頭の中にしっかりと焼き付いて
いる。

その後間もなく、突如としてあの男への内偵捜査打ち切り指示が下されてから、もう
1年以上の月日がたっているけど、僕の心の中では今でもこの男の線が捨て切れて
はいなかった。

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2019/09/28 14:54
ミステリーをぶつ切りにすると、次の3っつ、
1 事件発生
2 捜査
3 事件の解決
になるらしく、本作では2までいっているので、後編は3を丁寧に描いて行くのだろうなあと考えます。
社会派系展開、それとも村上春樹短編風の喪失感にするのか、いろいろと想像しています。



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