Nicotto Town



ファーストキスの裏設定というか。

亜衣子の涙を見てなお即決できない自分が情けなかった。


『すみません』を何度言ってきただろう。
求められるたび、逃げ続けてきた。
未練があるわけではない。
怖いのだ。
飛ばないと飛べないは違う。使わないと使えないとではまったく違う。
魔力を失うというのがどんなことなのか…未知の恐怖に彼は勝てないでいた。
いや、それともやはり未練なのだろうか。大魔界の大魔導士だった自分への…。

”魔導士ヤミノリウスⅢ世”・・・そんなものはもう、とうにエルドランに踏みくじかれてしまっているというのに。
自分を無償で愛し続けてくれている女(ひと)を悲しませてまで、しがみつくのか。

過去の話。
なにもかも、過ぎたことなのだ。
悔恨など……。

もう終わりにすればいい。

「亜衣子さん」
亜衣子の肩を抱き寄せる。
うつむく亜衣子を覗き込むように闇野は顏を近づけた。
涙をぬぐってやると、亜衣子はまっすぐ見つめ返してきた。その目には口で言っていたような怒りはなく、ただ悲しみが満ちていた。
「すみませんでした…」
闇野は亜衣子の顎をわずかに上向けさせると、その唇に自分の口を寄せていった。
亜衣子が驚いているのが分かる。自分が恐怖に震えているのが分かる。
この瞬間になってようやく気づいた。自分が恐れていたのは魔力を失うことではなく、魔力が失われなかったらということ・・・亜衣子の愛が偽りだと証明されてしまうことなのだと…!

魔王を亡くし、名を失い、今の自分に残された唯一ともいえる亜衣子を、この口づけで失うことが何よりも怖かったのだ。

そして
唇が 触れ合った。
深く重ねた。
亜衣子が目をとじ身を委ねてきたとき、
『…っ!!!』
闇野の左腕に激痛が走った。
灼きつけられた時と同等の痛みをもって、"それ"が打ち消されていくのだった。
魔王の呪縛を破るとは。
亜衣子の愛は本物だった。
苦痛に歪む顏を隠すため、闇野は亜衣子の頭を抱きすくめる。

契った時には死も覚悟したほど痛み、魔王を前に絶叫した。
だが今は耐えられる。温かさにに包まれ、安らぎすら覚える。
亜衣子が背に腕を回してきた。これが愛なのか。こんなにも力を与えてくれる。
歯を食いしばり、気づかれないよう声にも出さず、ただ強く亜衣子を抱きしめて耐える。
竜紋が燃えていく。あの日ゴクアークへたてた誓いの詞が、初めて名を呼ばれた声が、甦っては消えていく。思わずうめく声が漏れるのを、「愛しています・・・!」と繋げてごまかした。
応えて、亜衣子が抱き返してきた。心地よかった。不思議と胸の中が穏やかに洗われていく。

自分と魔界をつなぐすべては断ち切られた。
寂しさはある。が、もう悲しくはなかった。
新しく生きるのだ。ここからーーーーーーーーー

痛みが溶けて消えたあとも、闇野は亜衣子をきつく抱き続けた。





でもまさか魔王が生きて復活しちゃうなんて!って
うはー 絵を描かなくても妄想は妄想で止まらんなぁ




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