Nicotto Town


としさんの日記


「山男とサーファー」13


ヘビースモーカーの多い俺たちのパーティーは、高所行きの為、少なくとも半年以上は禁煙をしていた。
 街の灯の下では自由に吸い、飲めた煙草も酒も、高所ではきわめて慎重に楽しまなければならないのだ。
 唯一パキスタンのグルカ兵より貰ったウオッカも、みな自重して口をつけなくなった。というより、俺に遠慮してなのか、誰も飲もうと云い出す者がいない。
 アルコール度数の高いウオッカも、雪を溶かした水で薄めて割れば、さして酔いも回らないが、それでも平地での水割り一杯が、ここでは五杯以上飲んだ量に匹敵する。
 ここにいる酒豪たちにとってみれば、どうというほどの事でもないのだろうが、アルコールの力を借りて開放感に浸ることは、緊張感を強いられている俺に対して、申し訳ないという気持ちがあったのかもしれない。
 俺はM君の方を見た。
 ローソクの燈燭(あかり)の揺らめく中、彼は堅く口を噤んで、瞑想にでも耽っているかのように、目を閉じている。果たして、彼の胸の内を去来しているものは何なのか。口にこそ出さないが、M君にも強烈なクライマーとしての自負があった。今日のトレーニングツアーで、山男としての魂を呼び覚ましたのかもしれない。
 しかし彼の狙っていたのは、同じアルパインスタイルでやるカンチェンジュンガであった。


 最初にこのウインパーテントの中の重苦しい雰囲気を破ったのは、T氏であった。
 「君のやった実験だけど、あれ最初に考え出したのはフランスのポール・ベールという人物なんだ。1870年代から80年代にかけて、鋼鉄製の減圧室を使って、色々と人体実験を重ねてこんにちの高所生理学の基礎ともなる、理論とデーターを作成したんだ。チャールズ・S・ハウストンという人が書いた『ゴーイング・ハイアー』という本の中で、その他、実に興味深いことが書かれている。ポール・ベールという人物を知らなくても、レオナルド・ダ・ビンチやシャルルの法則で有名なジャック・シャルルは誰でも知ってると思うけど、彼らは、空を人が飛ぶことが出きるという発想に基づいて航空機や気球を考えだし、それを作り、そして今ではそれらが実際に証明されている。何も登山だけが高所環境の研究対象ではなく、気球や飛行機がもたらした興味から恩恵へと発展していく過程では、高高度における環境の、人体への影響に対する研究が不可欠だったわけなんだ」
 「なんだか面白そうな話ですね」
 Yさんが身を乗り出してT氏の方をうかがう。
 「フランス革命で有名な、ルイ十六世とマリー・アントワネットの目前で、気球を実際に飛ばしたという記録が今でも残されている。気球が本当に空を飛ぶのか、いや人間が鳥のように自由に空に飛び立つことができるのか、当時の人々は、ジョゼフ・モンゴルフィエやエティエンヌ兄弟の言葉に、皆半信半疑でいた。ところが実験の成功によってそれが真実だとわかると、色々な人が競って作りはじめた。その大騒ぎぶりは今考えてみると可笑しいが、目に浮かぶようだね」
 「なんだかその光景が、僕にも見えるようですよ」
 Yさんは目を輝かせて云う。
 「1783年9月に、実際に行なわれたとある。その1783年という年は、本当にすごい年だったんだね。モンゴルフィエ兄弟がその年の6月5日に実際に飛ばしてから、わずか三ヶ月ちょっとの間に、国王夫妻の前で行なわれたんだから。失敗してたら、ギロチンにかけられたかもしれない」
 テントの中は、大爆笑に包まれた。

アバター
2010/09/30 15:54
はるなさん、こんにちは。

あははは、こちらでは少し難しい小説かもね。

ニコでは、長い文章書いていると、フリーズしちゃう。だから、他のサイトで書いているコピペ。

動画も、写真なども、原文には貼り付けてあるけど、こちらでは削除せざるを得ないんだ。

仮想空間サイトだから、むしろ、イメージ膨らんでいいんじゃないの?

もう、全部書き上げているんだけど、出しおしみしています。

20作品書いているからね。SF小説や、純文学も書いているよ。
アバター
2010/09/28 23:06
なんか・・・
すごいっ!!
長い!!
分からない!!
と、まぁ、三拍子そろってるねぇぇww



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