Nicotto Town


としさんの日記


「山男とサーファー」20


 そこで俺は、ふと目が醒めた。
 ナンガのふところに抱かれて、俺はビバークしていた。
 雲が切れて紺碧の空が見える。

 『なんて夢だ』

 俺は苦笑いを浮かべて、青氷を削り取り、コンロで氷を溶かして、コッヘルにコーヒーを入れゆっくり飲む。薄い酸素の元では火力が弱まり、低高度での五倍以上の時間をかけて水に戻し、更に湯に変える。
 軽めの朝食。チョコレート一枚。牛缶を開いて、直火で温めて、ゆっくり食べる。
 あせりは禁物だった。
 雪崩がおきるかおきないかは、天のみぞ知る。運命が俺を生かしてくれるなら、このままアタックを再開できる。
 俺は1本のボンベを取り出して、10分ほど吸う。頭は完全な正常状態になった。

 俺は電池の消耗を避けるため、トランシーバーをオフにしていた。
 早速オンにして、BCと交信を始めた。

 「こちらは絶好調。ベースキャンプどうぞ」
 「こちらBCのYです。きのうは散々でしたね。何か問題ありますか、どうぞ」
 「大丈夫です。頑丈なツェルトのおかげで助かった。天候がいいうちにアタック再開します、どうぞ」
 「Tです。無理するなよ。ボンベは使ったか? どうぞ」
 「今寝起きで、ボンベ1本使用しました。おかげで頭すっきり。下からは良く見えますか? どうぞ」
 「あんまり無理するなよ、成功祈る、どうぞ」
 「サンキューです。これで通信終わります」

 俺は素早くテントをたたみ、ナップザックに入れて、カラビナをはずす。
 腹に少しでも温かな食い物がたまると、不思議と力が湧き上がってくる。チョコレートの影響も大きい。
 小用をテントの中で済ませていたが、便秘がちの為か、大の方は出ない。
 もっとも、食欲もないから、ここ一週間軽めの食事で済ませていたせいもあるかもしれない。
 外に、小用に使った缶詰の空き缶を置くと、10秒ほどで、中味はたちまちのうちに、カチカチになる。マイナス30度の世界は、それほど過酷だ。マイナス50度までの経験があったから、それに比べればまだ天国である。
 自然を汚すのは、毎回いやな思いになるが、荷物をできるだけ軽くする為に、不用な物はそこに置いていく。小用をした缶や、空ボンベを、そのまま放置し、『大自然の神様御免なさい』と手を合わせて、俺は再びアタックする。

 本当の紺碧の空。
 しかし、紫外線が強いため、マスクの上から黒のゴーグルをつける。露出しているのは鼻と口だけ。
 しばらくなだらかな斜面を歩く。

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2010/10/01 05:31
いつのまにやら 20 Σ(@д@;)



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