【遠い日の約束その1】
- カテゴリ:小説/詩
- 2009/03/28 16:24:42
【遠い日の約束】
『しっかり整備しといてくれよ』
目の前には愛機のザクスナイパーと、油にまみれた女性が一人。
俺はちゃむちゃむ、ジオン軍に所属している軍人だ。
ま、平たく言えばMS乗りってやつだな。
通称「ワイルド・モンキー」と俺の隊は呼ばれている。
その名の通り、エンブレムは猿のマークだ。
で、俺が話しかけた相手はこの隊の整備士を担当している女。
ま、女だが整備士としての腕は超一流、信頼できる奴だ。
『いくら整備してもあんたらがぼろぼろにするんでしょうが!』
『戦場に出るんだ当たり前だろうが』
この女とは同郷で家も近い、ま、いわゆる幼馴染というやつだ。
何の因果か同じ大隊に配属になり、今でも腐れ縁という奴で一緒に居る。
『お前、上官に対してその言いようはないんじゃないか?』
『うるさいわね、こんなところに居る暇に部屋で休んでくれば?』
女は邪魔だとでも言うように手をひらひらさせて俺に出て行けと促す。
おれもこれ以上小言を聞くのも嫌だったので、自室に向かい体を休めることにした。
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『ねえ、大きくなったらちゃむちゃむは何になるの?』
漆黒の髪の少女が俺の目を覗き込みながら言う。
『僕はMSに乗るんだ、パイロットになってMSに乗って、そして皆を守るんだ』
『そう・・・』
少女の大きな瞳が哀しげに揺れる。
『それでね、それで君のことも守るんだよ』
得意そうに胸を張って少年の俺が言う。
少女は驚いたように俺を見つめ、そして俺の頬に柔らかい感触が伝わった。
『約束よ、ずっと私を守ってね、ずっとよ』
『ああ、約束する僕は・・・』
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まどろむ俺の頭上でけたたましくサイレンが鳴る。
『総員戦闘配備!繰り返す、総員戦闘配備!』
どうやら敵襲らしい。
なにやら昔の夢を見ていたような気がするが、寝ぼけている場合ではないようだ。
ノーマルスーツに着替えて愛機の待つ格納庫へ急ぐ。
『大佐!まだ大佐のMSは整備が・・・!』
言いかける整備士の言葉を遮り愛機のザクスナイパーに乗り込む。
『ちゃむちゃむ!無茶よ!』
『サエ曹長、上官命令だ出撃準備を!』
あえて階級を口にして有無を言わせぬ姿勢を見せる。
俺一人がこんなところでくすぶっているわけには行かない、部下達へも示しが付かない。
女の瞳が一瞬なんともいえない色に染まり俺を見つめる。
が、次の瞬間には軍人の表情になっていた。
『・・・・了解です・・・ちゃむちゃむ大佐』
女、サエも階級を含んで俺を呼んだ。
ザクスナイパーのコクピットに座り、計器類を確認する。
エネルギー調整とバランサーの数値が異常を示していた。
『ライフルのエネルギー調整がうまくいっていません、通常よりもリロードに時間がかかると思われますが、それ以外には問題はないと思います、バランサーのほうは気になるほどではありませんが、若干姿勢制御の調整が難しくなるかと・・・』
サエが計器を指して説明する。
『行動自体には問題ないのだな?』
『はい、大佐の腕であればオートパイロットにしなければ問題ないかと』
『よし、それならいい』
サエがザクスナイパーから離れると同時にコクピットのハッチを閉め、ブーストペダルを踏み込む。
『ちゃむちゃむ、出撃する!』
本来なら先に出撃して射撃ポイントについていなければならないはずのスナイパーであるのに、出遅れてしまったことは悔しかったが、今はそれを悔やんでいる場合ではない。
ミノフスキー粒子の濃度が濃いので、味方機がどこに居るのかすらわからないが、スコープを覗き敵影を探す。
距離を示す罫線に重なるようにして遠くの風景が手に取るようにスクリーンに映し出される。
『いた!しかもおあつらえ向きに突っ立ってやがる』
スコープの中には敵影を探しているのか、立ち止まったままで孤立する連邦の機体を見つける。
どうやら近距離射撃タイプのMSらしい、手に持たれた武器はマシンガンのようである。
『いただき!』