人間は誰でも自分がかわいい。
生きものとしての本能でもあるし、
倫理としても、自分は愛さればならぬし、
大切にもしなければならぬ。
「自分がかわいい」のはいい。
しかし、人間とかく、「自分だけがかわいい」になりやすい。
「他人はどうでもいいんだ」と。
こうなったとき、愛からも幸福からも、遠ざかることになる。
自己中心的な自己愛から、
しあわせを求めても、それがえられることはあるまい・・・というより、
その「自分だけがかわいい」という心をもつことが、
決定的な不幸なのだといえる。
他人も自分も、いのちの根源は一つである。
その"一つ”のところに立つことができるとき、
他人の喜びや、他人の痛みを、自分のもののように感じることができる。
これが愛であり、自他一体の境地であって、ここに立つとき、「あたえる」ことや「ゆずる」ことが、
自分の喜びになる。たぶん、これがもっとも深い幸福なのであろう。
ただ、自分の心や肉体はじかに感じることができるが、他人のそれは想像でもって感じる
しかない。このため、つい、「自分だけがかわいい」になりやすいのであり、このとき、「客
観的な眼」が失われることになるわけである。だとすると、自他一体の喜びを真に知るためには、
我執を捨てることが必要ということになる。「修養なくして幸福なし」ということができるゆえんである。