他愛もない会話でもいいからして欲しい
- カテゴリ:自作小説
- 2015/02/02 13:40:26
FC2小説で公開している「循環」のキャラが好きすぎるので、気持ちが高ぶって奴らが騒ぎ出したらここで発散することにしようと思います。
本当はやりたかったことを消化していくんだと思います。
どうもこうも広い部屋だ。琴琶は紫雲の目の前で豊かに笑っている。まだぎこちない平凡なカードシャッフルを繰り返しながら、面々が揃ったことを喜んでいるようだった。そこから右手に春、左手に緑雲がいる。
だだっ広い部屋のほぼ中央に、小さめの円テーブルを囲んでみっちりと座っている傍から見れば異様な光景だ。紫雲は鼻を掻いて視線を下にそらした。親しい仲にも感じられる、刺々しい空気。
「情報」を賭けたゲームが始まる。
「ポーカー」
ランダムに一枚引いたカードが最も強かった紫雲が、何十回も切られたカードの山を見て言った。最初はポーカーで最も弱かった人物から、情報を頂くルールだ。緊張で口内がどんどん乾いていくのに、喉は何かを飲む込む仕草をして気を紛らわしたいらしい。緑雲が全員に最初の手持ちを配布していた。
冷や汗さえも流れてくれない。陽気な音楽も流れてくれない。ぺらりと紙のめくる音ばかり響く。広い部屋はそれを大きくしていくだけだ。そして遠くに去っていくだけだ。
ノーペア。紫雲から順にカードを交換していくことになっている。色もまちまちな手持ちにどう揃えるよう狙うかは全く決まらない。ノーペアでは誰にも勝てない。誰の顔を見ても焦るだけ。きょろきょろと視線がカードの右から左へ、復路へ、向かうばかり。
緑雲はそんな紫雲の様子を見て深い溜息を殺した。ばればれの表情は非常によろしくない。ノーペアであり、色も期待できないだろう最悪な手持ちだと、誰でもわかる。現に緑雲の前にいる春はわかり易すぎて驚いているらしく、暇を持て余して両手が持ちカードを扇のように開いたり閉じたりしていた。
どんな情報が漏れるかわからないのだ。このゲームの中でも、敗者が語らねばならない何かでも。それは敵国である彼らにとって有利になる。我々にとって不利になる。良好な友好関係は結局、叩いたら壊れそうな橋の上にしか存在しない。慎重に歩むこともできないのだ。
ようやく四枚のカードを捨てて、紫雲は山札から同様にすくい上げた。そこでようやくポーカーフェイスの必要性を思い出したのか、どちらともとれる目の見開きとともに、紫雲はカードをテーブルに伏せた。緑雲もカードを取り替える。
琴琶は緑雲と正反対のポーカーフェイスを駆使して、誰にも手の内を明かさないでいた。五枚とも入れ替えた勇気のいる行動はどう出たのか、琴琶は手持ちを見るふりをして、前者にのっとりテーブルにカードを伏せた。
最後である春もカードを交換し終え、テーブルに伏せる。
勝敗は既に付いているのだ、今更焦ることなどない。春が片手を上げてコーヒーを持ってくるよう促した。間もなくクロが四人分のコーヒーと琴琶にミルク、紫雲に砂糖を渡して静かに去った。
広い部屋だったことを思い出す。紫雲は静かに深呼吸して、テーブルの真ん中にずっと佇んでいた紙を見つめた。
そこには個人のパーソナルデータや各国の情報と放射線状に書かれているはずだ。しかし上にかぶさっている二枚目の紙によって、どこにどんなことが書かれているのかはわからない。この中心にペンを立てて、四人が指で抑える。それを離してペンが倒れた箇所に書かれていることを、明かさなければならないのだ。
四人が一斉に手持ちを明かす。
ツーペアが2つ、ストレートとフラッシュだ。春と緑雲が互いの手持ちを見て顔を上げた。
「よく騒いだもんだよ、どっちが強いかってのをさ」
「公式ルールブックというものが、東陽には存在するのだが・・・」
緑雲は上着の内ポケットから薄い手帳を取り出した。ぱらぱらとめくりある一ページを全員に見えるようテーブルに倒す。
「勝者はお前だよ、春」
そこでは下に行くに連れてカードを強くなっていくのだが、ストレートの下に、フラッシュがあった。春は陽陽と笑み、コーヒーを飲み干した。
「お前嘘つくこととだって出来たのに」
「勝っていようが負けていようが、ここは関係ないだろう」
自分のカードの中で最も弱い5を指で叩く。その通りだった。
重要なのは、誰が最も弱いかだ。琴琶の心臓がどくりと波打つ。同じだとわかった紫雲の手持ちと、カードの柄や数字を見比べた。ギリギリだ。ギリギリなのだが、紫雲が負けている。紫雲はJとQ、琴琶は10とKのツーペアなのだ。喉元につっかえていた空気の栓が密かに開いた。安堵のため息が全身の緊張を解いていく。目の前で紫雲は無理やり笑い、三人を見ていた。
「しょうがないっすね、お題を決めましょう」
率先してペンを立たせる指先が、とても冷えていた。異論を唱えることなく、四人がペンの上に指を重ねる。一番下の紫雲にも、どこに何が書かれているかわからないのだから、イカサマをすることもない。
スローモーションのように、ペンは紫雲の方へ傾いて倒れた。ペンの重みで微かに、下の文字が見える。手で紙を押さえ込み周りには見えないようにしてから、紫雲は口パクでそれを読み上げた。
――でも春は、最初から知っている。紙にはくだらないお題しか書かれていないことを。
最初から四人の友情は保たれているのだ。紫雲は目を疑って文字を疑って何度も紙の上から透かして読んだ。やっと紙をめくって読んだ。何度も何度も念入りに読んだ。
気持ち悪い人間関係だ。どうして殺し合う敵どうしで友好関係など築けよう。不思議だがそれが彼らの繋がり方なのだ。紫雲は小さく息を吸って、お題に対する答えを口にした。
「グリンピース」
その日のお昼はグリンピースの沢山入ったシチューに決まった。
紫雲の地獄は止まらない。
すいませんでした(´>ω∂`)