Nicotto Town



自作小説倶楽部9月投稿①

『ルナティック』前編

 CASE
1
 ぴょんぴょんぴょん。あたしはウサギ。白く輝く毛皮に揺れる耳。ぴんとしたおヒゲ。紅玉の瞳。いつもはか弱いあたしだけれど。今宵は満月。お月様が力をくれる。小さな白い足でひとっ跳び。どこまでも走って行ける。身体が軽いわ。このまま空を飛んでしまいそう。誰もあたしには追いつけない。お月様、あたしにもっと力をください。
 
こんにちは、小鹿さん。あたしがあんまり早いから驚いたでしょ。あなたの素敵な脚でも今日のあたしには敵わないわよ。こんにちは、リスさん。今日は木の上のあなたのおうちに伺いましょうか。
 あれ? 二人とも悲鳴を上げて走って行っちゃった。ははあ。あんなところに意地悪狐がいるからね。こっちを睨んでる。いつもあたしを目の敵にしているけど今日は負けないわ。

 

 CASE2
 うおおお。満月が俺の魂を呼び起こす。忘れていた野生の血が血管を流れて満たす。そして醜い人間の皮を脱ぎ捨てて本来の姿を取り戻す。俺は狼男だ。人間ども俺を恐れろ。怯えろ。俺の爪はお前たちの首をかっ切り。俺の牙はお前たちの骨まで砕く。
 今宵の獲物は愛しいあの娘だ。温かな血と白い肌。考えただけでぞくぞくするぞ。うおおおお。恋しいぞ。遠吠えも切ない。愛しいお前、俺に血と魂を捧げよ。
 
さあ、やって来たぞ。ここが俺の想い人の家だ。誰かから聞いて調べたんだっけ。
 あの娘。いや、彼が俺を見て悲鳴を上げる。恐怖さえ今の俺には快感だ。俺の腕を引っ張った奴がいる。なんだお前、邪魔する奴は容赦しないぞ。喰らう価値もない屑肉め。
 
さあガブリ、愛しい人。悲鳴。
 あれ? モップを握って反撃してきた。痛い。いてててて。 

 

CASE3
 今まで黙っていましたが、実は私は月の都の住人です。下界の人間としてこれまで暮らしてきたのは故郷で犯した罪を償うためです。罪というのは私の美しさです。私の美しさは天上でも多くの男性を惑わしました。ああ、美しいって罪。罪ゆえに下界で大したとりえもない子供として生まれ、成長しても目立たず、地味で個性もない人生を送り。平々凡々の見本のようなあなたと結婚してしまったのもすべて私の懲役だったのです。信じられないのも無理はありません。ほら、今夜の私は元の姿を取り戻したわ。罪が許され月の都に帰るのよ。
 え?
いつもと変わらず地味だって?
 あ、ほら、満月から使者がやって来る。
 あら、あなた、どこに電話してるのよ。病院?

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2015/09/27 20:55
僕の抱えてしまった謎は後半で氷解するのでしょうか?



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