Nicotto Town


仮想タウン 光冠のブログ


ちょっと弟の話。

 意外と打たれ弱い。

 春はひとりで落ち込んでベッドに顔をかぶせて、それから腹の底にしまいこんだ。今日も今日とて苦しい1日が終わり、案の定心はボロボロだ。よく帰ってこれたものだと思う。
 本当なら誰かのところにでも行きたいものだが、あいにくこんな時付き合ってくれる男はいない。同僚はみんなこんなもんだ。ひとりで抱え込んでうまくやっている。
 非常に後ろめたい。自分にはそれができないのだから。
 ベッドと顔の間に腕を挟む。若干のしかかる圧迫感が意識を少しだけ逸らしてくれる。
「あー…」
 無気力な声。胸に膨らんでいた汚染された空気だけが出て行く。
 寝返りを打つように身を転がせば、やっぱり窓が開いていて冷たい空気が入っているのだ。体を取り囲むそれが妥協点。
 できることならこうしたい。
 腕を空気に回す。そこに誰かがいるように。

 と、昔を思い出して笑った。何も変わっちゃいないと。
 結局誰を相手にしているか、だけの違いだ。琴琶よ、血の繋がらない家族がこんなにも愛おしいものか。ひとりドアを背にして佇む。冷たい風の入らない窓にたれさがるカーテンの物静かさが目立つ。
 手のひらを見つめては、あの頃を想起してため息をついた。
 こんなに幸せだぞ、いいのかおれ。
 彼女にすがるほど苦々しい経験が待っているのに、それはやけに笑いを誘った。自嘲よりもはるかに心を軽くしてくれる。
「あー…」
 試しに一声。実に清々しい空気。
 月光で十分な部屋の中を歩き、テーブルに手を添えた。ぱっと頭に広がる思い出が、吸い込む息を浄化した。
 試しに椅子に腰掛け前の空席をみつめる。そこにだれかがいるとわかった上で。
 にや、っと笑う表情が浮かぶ。彼女はあの頃からずっと、おれの探し求めていた存在。
 唇を動かす。
「お姉ちゃん」
 なんて。




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