Nicotto Town


人に優しく。


おれだけのひみつ


「どこが気持ち悪かったかね」

「おまえの気持ち悪いとこ? 百億個くらいあるでー」

「うん。どこ」

「百億個? いちから教えてほしいか? それとも紙に書いて表作るか?」

「いちから教えてほしい。気持ち悪いんじゃろ。どこが」

「どこがって、そりゃあ」

「うん」

笑っていた坊主頭の顔面が、ふいに固く引き締まった。

それであみ子は自分の真剣が、向かい合う相手にちゃんと伝わったことを知った。

あらためて、目を見て言った。

「教えてほしい」

坊主頭はあみ子から目をそらさなかった。

少しの沈黙のあと、ようやく「そりゃ」と口を開いた。

そして固く引き締まったままの顔で、こう続けた。

「そりゃ、おれだけのひみつじゃ」

引き締まっているのに目だけ泳いだ。

だからあみ子は言葉をさがした。

その目に向かってなんでもよかった。

やさしくしたいと強く思った。





ー 『こちらあみ子』 今村夏子 ー




 




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