Nicotto Town


人に優しく。


  

微笑

今夜、十本、一気に注射し、そうして大川に飛び込もうと、ひそかに覚悟を極めたその日の午後、ヒラメが、悪魔の勘で嗅ぎつけたみたいに、堀木を連れてあらわれました。

「お前は、喀血したんだってな」

堀木は、自分の前にあぐらをかいてそう言い、いままで見た事も無いくらいに優しく微笑みました。

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善き人

「もう愛情はあるか?」

そう言ったのは彼だが、口から出たとたん、自分で驚く。

「この子に? いいえ。どうして愛せる? でも、愛するようになるわ。愛情は育つものよ。その点は、母なる自然を信じていい。きっと良い母親になってみせるわ、デヴィッド。良き母、善き人に。あなたも善き人を目指すべきね」...

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おれだけのひみつ

「どこが気持ち悪かったかね」

「おまえの気持ち悪いとこ? 百億個くらいあるでー」

「うん。どこ」

「百億個? いちから教えてほしいか? それとも紙に書いて表作るか?」

「いちから教えてほしい。気持ち悪いんじゃろ。どこが」

「どこがって、そりゃあ」

「うん」

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急を要する

「自分の愛するものから離れさせるなんて値打ちのあるものは、この世になんにもありゃしない。しかもそれでいて、僕もやっぱりそこから離れてるんだ、なぜという理由もわからずに」

彼はまたぐったりクッションにもたれた。

「これは一つの事実だし、つまりそれだけのことだ」と、彼は疲れ切った調子でいった...

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何かを愬えるように、直美はぼくを見ている。

ぼくはベッドの縁に手をついて、ビニールに顔を近づけた。

ぼくの身体の動きにつれて、直美の目が動いた。

その直美の目を見つめたまま、ぼくは息をつめて黙り込んでいた。

「あなたはいつも、黙り込んでいるのね」

直美の目が語っていた。...

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