Nicotto Town


人に優しく。


覚めないで


センセイ、これ、夢ですか。

わたしは聞いた。

夢でしょうかねえ。

そうかもしれませんねえ。

センセイは愉快そうに答えた。

夢なら、いつ覚めるんでしょう。

さあねえ。

わかりませんねえ。

覚めないでほしいな。

でも夢ならいつか覚めましょう。

雷鳴がいなびかりの直後にどんと響きわたり、わたしは体を硬直させた。

センセイがわたしの背中を撫でる。

覚めないで、とわたしはもう一度言った。

それもいいですね。

センセイは答えた。





ー 『センセイの鞄』 川上弘美 ー




 




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