Nicotto Town


人に優しく。


桃のかけら


「ああそういえば、長谷川さんも、生物の班決めの時に取り残されてたもんな。」

“取り残されてた”という響きが胸にぐんと迫ってきて、慌てた。

友達とかに無頓着で、というかオリチャン以外の現実に無頓着だから、絶望的な言葉をさらっと口にすることができるんだ。

「そうじゃなくて、なんていうの、私って、あんまりクラスメイトとしゃべらないけれど、それは“人見知りをしてる”んじゃなくて、“人を選んでる”んだよね。」

「うんうん。」

「で、私、人間の趣味いい方だから、幼稚な人としゃべるのはつらい。」

「“人間の趣味がいい”って、最高に悪趣味じゃない?」

鼻声で屈託なく言われて、むっとなる。

「でも、おれ分かるな、そういうの。というか、そういうことを言ってしまう気持ちが分かる。ような気がする。」

同意は同意でも、私の求めていたものとは違う。

けれど、彼の言葉に不思議に心が落ち着いた。

小さい桃のかけらを口に含むと、生ぬるい、舌を包み込むような甘さが口に広がった。





ー 『蹴りたい背中』 綿矢りさ ー




 




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