Nicotto Town


人に優しく。


どうして返さなくてはならない


マルティンはボーッとお金を見つめていた。

それから首を振った。

「いいえ、ダメです、先生」

道理さんは紙幣をマルティンの上着のポケットに押しこんだ。

「おとなしく言うことを聞くんだ、わからず屋め」

「でも、ぼく、五マルクもっています」とマルティンが小声で言った。

「ご両親にプレゼントをしたくないのかな」

「したいです。とても。でも……」

「ならば、いいじゃないか」

マルティンは絞り出すような声で言った。

「とても、とてもうれしいです、先生。でも、ぼくの両親が、いつになったらお金を返せるか、ぼくにはわからないのです。父は失業しています。復活祭に、ぼく、家庭教師できるような新入生が見つかるといいのですが。それからでもいいですか?」

「すぐにでもその口に蓋をしてくれないか」

ベク先生が厳しい声で言った。

「クリスマスイヴに旅費をプレゼントした。どうして返さなくてはならないのだね。それがどうなるというんだね!」





ー 『飛ぶ教室』 エーリヒ・ケストナー ー




 




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