Nicotto Town


人に優しく。


わたしもやる


彼はちょっと考えた。

「こんなことを考えたことはないかい、ぼくたちの取るべき最善の道は、手遅れになる前にただ静かにここから出ていって、それきりさようなら、二度と会わないことだって?」

「ええ、考えたわ、何度もね。でもやっぱり、そうするつもりはないわ」

「ぼくたちはこれまで幸運だった」

彼は言った。

「だがこれから先、そんなに長く幸運が続くはずもない。君は若い。怪しいと疑われる理由などなく、無邪気そのものに見える。ぼくのような人間と付き合わなければ、あと五十年くらい生きられるかもしれないんだ」

「いいえ。そんなこと、もう全部考えた。あなたのやること、それをわたしもやるつもり。あんまり気落ちしないでよ。わたし、生き延びるのは上手なんだから」





ー 『一九八四年』 ジョージ・オーウェル ー




 




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