Nicotto Town


人に優しく。


曾おじいちゃん


「無名、これ食べるか。」

曾おじいちゃんが軽くトーストしてくれたライ麦のパンは香ばしいけれど、噛むのが大変だ。

乾いた穀物の尖った悪意が口の中の粘膜をいっせいに刺す。

血の味がする。

穀物は摘み取られ、脱穀され、粉にされ、捏ねられ、焼かれてもまだこんなにトゲトゲしく反抗し続けている。

しぶとい奴だ。

一度、「トーストは血の味がするね」って言ったら、曾おじいちゃんが泣きそうな顔をしたから、そういうことはもう言わないことにした。

曾おじいちゃんは眉毛が濃くて顎が張っていて強そうに見えるけれど、実はすごく傷つきやすくて、すぐ泣きそうになる。

なぜか僕のことを可哀想だと思っている。





ー 『献灯使』 多和田葉子 ー




 




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