Nicotto Town


人に優しく。


俺のおごり


「あんたなんかお呼びじゃないわ」

ザジがやり返す。

「お嬢さん」

トルースカイヨンが言う。

「もっとお行儀よくしなきゃいかんね、目上の人には」

「すてきだわ、わたしを庇ってくださるなんて」

ムアック未亡人が言う。

「行こう」とガブリエル。

「『昼盲症溜り』へ案内するよ。あそこがいちばん顔がきくんだ」

ムアック未亡人とトルースカイヨンは一行に従う。

「見た?」

ザジがガブリエルに言う。

「年増とポリ公があたしたちにへばりついてるわよ」

「とめるわけにはいかんよ」とガブリエル。

「奴らの勝手さ」

「にらみをきかせられないの? むしずが走るわ」

「もっと他人にやさしくしなきゃいかんよ」

「ポリだって」

全部聞きつけてムアック未亡人が言う。

「やっぱり人間よ」

「私がおごりますよ」

トルースカイヨンがおずおずと言い出す。

「そうは」とガブリエル。

「させんよ。今夜のところは、俺のおごりだ」





ー 『地下鉄のザジ』 レーモン・クノー ー




 




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